ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「ジュリアンよ」
あたしが手当てするよって言ったらたぶん結構抉れててグロいけどいけんの? って訊かれたから速やかに硯くんに譲っといた。いやグロは苦手じゃないんだけどほら直面するのと映画で見るのとは違うじゃん。
で、ひとまず応急処置で包帯を巻いたたくましい筋肉質な腕、スキンヘッド、くりくりの目のその人は飲み物を出したあたしが向かいに座るとそう言った。
「…えっと、ジュリアンは、女のひと?」
「は? あんた目ぇ節穴なの? どっからどう見ても男でしょうが」
「世の中には色んな人間がいんの鳴」
それ以上深掘るなと無言の圧をくらいはぁいと仕方なく返事する。オネエ言葉のイカツイおじさんって訳だ。ふーんほうほう、なるほどわからん。
「日本語ウマイすね」
「この辺観光客の溜まり場でしょ、多いのよあんたたちみたいなおのぼりハッピー日本人。暮らしてたら嫌でも日本語なんか喋れるようになるわよ」
まるでTVで見る英語の喋れない外タレばりに流暢な日本語にちょっとあたしのが日本語下手なんじゃねと不安になる。今時バイリンガルもトライリンガルも横行する世の中だ、あたしも頑張って早く英語理解出来るようにならないと。
「………けど、おのぼりって割にはいい部屋に住んでるのね」
留学? って頬杖をついて訊かれて、なんであたしらが話聞かれてんだと思うけど曰くジュリアンは自分のお店を構えててそこの店長をしてるらしい。バーだって。俗に言うママってわけだ。道理で人見知り0の話し上手、って思ってたらジュリアンがおもむろにあたしと硯くんを交互に品定めするように見た。
「ねえ、あんたたち喧嘩出来るかしら」
「硯くんはばちくそ強い」
「おい」
「よしきた」
いいわよ、と言われてなにがいいんだかわからぬままにジュリアンが座ったまま膝をぺしんと叩く。そしたらにっこり微笑まれた。
「雇ってあげるわ」
「いやいいです」
「はぁん!? あんたら見るからにお金なさそーな顔してんじゃないのよ!」
「いやこう見えて7億あるんで」
「だ!?」
「いやフェラーリ買ったから正しくは6億7500万…」
「ちょちょちょちょっとまって!!」