ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「翠に立てつくとはいー度胸だね」
「それで反抗声明かい。スイちゃん絶対望んでないでしょ」
「違うよ俺が俺の意志で鳴に会いにきたんだよ。あんま動物園のパンダ状態だから大丈夫? って」
「あ、ノープロブレムお構いなく〜」
すい、と背を向けると即座にスイちゃん彼氏、栃野が大股で歩いてあたしの横にぴたとつく。後ろ向きであたしと顔を合わせるように歩いてポケットに両手を突っ込んで。
で地味にひょい、とあたしを覗き込んでくるから左半歩横にずれる。
「わかんない? 心配してんだよ、俺」
「浮気男はスイちゃんに嫌われるよ」
「むしろそのスイの御所望なんだよな」
「え?」
「お前があんまり迫害受けてるから様子見てあげてって」
けど女がいったら周りが多分うるせーじゃん、だから絡まれてるフリの方が多分自然でしょ、って。どうなんだ、信用していいのか。スイちゃんが? スイちゃん、でも誰の味方でもない独立国家の女神だよ。そんな気の利いた根回しするかな。あたし向けに。
「なんなら確認してみよーか? いーよいま電話かけても」
「いっ、いい。わかった信じるから」
がば、と栃野が取り出したスマホに抱きつくようにしがみ付いたら至近距離でその顔が微笑んだ。誤解が生まれる前にぱっ、と手を離して足早に校門へレッツゴー。
その間にもちらほらスイちゃんの彼氏ってブランドをぶら下げたあたしに向けられる視線が痛いから、学校出るまで話しかけないことでお互いに同意して「駅前 ファミレス 13番(禁煙席)」とかいうスパイみたいな単語だけを明後日の方に向かって言い捨てて栃野と校門で右と左に分かれて物言わぬバイバイをした。
「しかし今回は災難だったね、鳴」
駅前のファミレスはいつも人が多いけど、最近学校の近くに新しくショッピングモールが出来てからはそっちの飲食店にほとんどの学生が流れ込む。こっちだって別に古くはないけれど、そっちの方がステラカフェとかマックとかとにかく充実してるからで今こっちは閑散期。
あたしだって叶うならステラの新作フラペチーノ飲みたかった。飲もうねって友だちと話してた。でも出来ないんだな、って注文して届いた特大イチゴチーズパフェにざく、とスプーンを突き立てる。