ビッチは夜を蹴り飛ばす。
ジュリアンが投げたのはバイクのキーで、あのあと子ども用のヘルメットを投げられてこんなん入るわけないじゃんと叫んだけどいざ被ったら余裕のジャストサイズだった。あたし脳みそないから頭小さいんか。うるさいわ。
そのまま後ろに乗って走行すること20分、着いた場所であんたはここにいなって言われた。バイクの番も兼ねてそばにいようと思ったけど、夜だし暗くて怖いから少しだけ後に引っ付いてったらまた違うバーみたいなお店の扉を開けたジュリアンに、中の人が返事をする。
「いらっしゃ———…やだ、ジュリアン! どうしたのその傷、お店は!?」
「ちょっと色々あってね」
「可愛い子連れてるじゃない新入り?!」
「そんなとこ。それより聞きたいことがあるんだけど…」
時間ないから手短に、と伝えれば臨機応変に対応してくれたセルリアンブルーの髪をしたその女性も、ジュリアン曰くかつてのジュリアンのお店の従業員で一番ミレーナと仲が良かったそうだ。
ミレーナが辞めるほんの少し前に自分のお店を構えることになって辞めたけど、今でもヘルプでジュリアンを助けてくれることもあるらしい、いわゆるチーママレベルのお姉さん。
今何時かなぁ、としばらくバイクのそばで夜空を見上げてたらワッ、と店内の喧騒が聞こえてきて、でも扉が閉まるとすぐにその声が遠のいた。
「わかった? ミレーナの居場所」
「…ええ」
はぁ、とため息をつくジュリアンがバイクに跨るから、あたしも遅れて乗る。高いから手こずってたら手を貸してくれて、腰に手を回したらメイ、と呼ばれた。
「今から家帰るから、あんたん家教えなさい」
「え? ミレーナは?」
「…なんかややこしいことになってきたのよ」
これはあんたみたいながきんちょが首突っ込んでいい話じゃない、と言われて、は? と思う。や、今更でしょそんなの。なにそれ。
「子どもは帰って寝る時間よ」
「…本当に怖かったら銃撃戦の時点で尻尾巻いて逃げてるよ」
「、」
「怖いけど!! ジュリアンが可哀想だったから拾ったあたしが責任取って助けるって決めたの! 首突っ込む突っ込まないは関係ない、あたしがジュリアン助けたいって思った気持ちだけは否定しないでよ!!」
ジュリアンがそれを否定しないでよ、ってちょっと涙声で伝えたら、横を向いてたその顔から少しの吐息が漏れた。笑ったようにも聞こえて、首をもたげる。
「…後悔しても知らないわよ」
「今更しないよそんなの」
絶対、しない。