ビッチは夜を蹴り飛ばす。


 ハープみたいな、透き通った声だった。

 顔をあげれば扉の向こうから金髪の巻き髪お姉さんが出てきて、女優顔負けの抜群のプロポーションに背中のばっくり開いた白のドレスで現れてその姿にあたしは間抜けにも唖然とする。


「I'm glad ... I didn't expect to see you. You searched for me.
 (嬉しい…まさか会えるとは思ってなかった。私を探してくれたのね)」

「Milena, what are you thinking? This is not where you are. Let's go home.
 (ミレーナ、何を考えてるの。ここはあんたのいるところじゃないわ。帰りましょう)」

「No, you're still saying that you're asleep. Julian, that attitude of believing in you is sometimes stupid.
 (やだ、まだ寝ぼけたこと言ってるのね。ジュリアン、あなたの人を信じようとするその姿勢は時に愚かよ)」


 何もかもくだらない、と高らかに声を上げて笑うけど、ミレーナが多分ジュリアンに黙って付いてこようとしてないことだけは、わかった。ジュリアンが怪訝な顔をするから、ミレーナはそれを愉しそうに堪能する。

 その目は子どもが幼い頃に虫の足をもぐのと同じ色をしていた。


「You messed up like that.
  (あいつらしくじったのね)」

「…e?」

「Hey Julian, I'm not the kind of person you think. You've noticed it all the time, but it's silly that you should rehabilitate. I was such a person from the beginning, it doesn't matter if a person falls or not. There is love and money.
 (ねえジュリアン、私はあなたが思ってるような人間じゃないわ。ずっと気づいてたんでしょう、それなのに更生しなさいだのなんだのとくだらない。私は元からこういう人間だった、人が陥落しようが私には関係ないしどうでもいい。そこにあるのは愛と金)」


 怒りと悲しみに震えるジュリアンの顔だけはわかるのに、ミレーナが何を言ってるのかわからない。二人を交互に見てただただ困っていると「あ、そうだ」みたいなミレーナの声とぱちんと指の鳴る音がする。


「I hired a nice bodyguard today just in case something like this happened. This is my favorite beauty, and it's smart and usable. I got the money. I love you this time. I'm sure you can be happy.
 (こんなこともあろうかと万が一に備えて今日素敵なボディガードを雇ったのよ。これがとても私好みの美形でね、それに頭も切れるし使えるときた。私は金を手に入れた。今度は愛ね。きっと幸せになれる)」


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