ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.4 後夜
「うっうぇっ、うっ、ううっ、ぐすっ」
ぐす、ずずっ、てジュリアンのお店のカウンターに突っ伏して泣きべそをかいてたらあ———! とジュリアンが発狂した。
「ったくいつまでメソメソメソメソしてんのよ鬱陶しい!!」
「だ、っ、だって、だって、す、すずりく、がっ、すずっぅっ」
「どんだけ打たれ弱いのよ…」
あのあと恐らくハンター達によって処理されたあたしたちはカジノのお店からかけ離れた寂れた路上で目を覚まし、気がつけば朝だった。
朝日に目が眩んで全部悪い夢だった、って思いたかったけど硯くんが蹴飛ばしたことでついたジュリアンのおでこの傷も、首を絞められた痕も鮮明で。
〝お前にはほとほと愛想が尽きた〟
硯くんが言ったその言葉も記憶にあるから、夢じゃない。
やっとの思いで店まで戻ってきてガラスが散乱した店内はまるであたしの精神そのものみたいで、離れた場所で座ってたジュリアンが氷嚢を当てながら頬杖をつく。
「まぁあの見た目にあんたじゃね」
「!」
「だってどっからどー見たって不釣り合いよあんたたち、女はね、男を繋ぎ止める為にいつだって優位にいなくちゃならないの。男が美形過ぎるなんて論外よ。あんたみたいなちんちくりん元々本気じゃなかったんじゃない」
「そ、そんなことない、…と、思う」
「セックスしたことあるの?」
「あっ、あるよ!」
「あら意外。ロリコンなのかしら」
「あたしもう16だし!!」
「好きって言われた? 愛してるって言われたことは?」
「…え」
い、言われたこと、ねーや。てか言ったことすらない気がする。さー、と青筋が落ちてそろりと視線を逸らせば鼻で笑われる。
「だめよ、人間心で通じるとかじゃない。結局言葉にしなきゃ伝えたいことの何一つ相手に伝わらないんだから」
わかってるつもりで何も知らなかったあたしが今回のそのいい例、ってきっとミレーナのことを皮肉げに嘆くジュリアンに、あたしも今は完全に思考回路が停止していて他に何も考えられそうにない。
「まっ、これを機に新しい男に乗り換えることねー」
「…そんなスマホみたいに言われても」
「男なんて星の数ほどいるじゃない。…まぁあのルックスは中々いないと思うけど」
「…あたし別に硯くんの顔が好きで傍にいた訳じゃないもん」
「え!? じゃ何よ」