ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「さすがスイちゃんの彼氏だね。疑いもしないんだ」
「だってあの写真ほど鳴、豊満じゃないでしょう」
「人と話すときは目を見ろよ」
「俺に頭撫でられて露骨に嫌な反応する潔癖がそんな快挙出来るわけ」
なーいない、って手を左右に振られてスプーンを咥えたままジト目で栃野を見る。
…わからない。栃野がなにを考えているのか。いや、スイちゃんの根回しで話聞いたげて、ってそれが全てなんだろうけどさ。なんでスイちゃんは自分の身にならないそんなこと頼んだんだろ。それも自分の彼氏派遣してまでさ。
「まぁ、でも俺も気になってはいたんだよ。てか俺があの写真鳴じゃないじゃんね誰がどう見てもわかるよねっつってんのに、周囲がバカみたいに鵜呑みにして話になんないからちょっと変だなとは思ってる。
普通信じる、信じないの二択だろ? なんで信じるの一辺倒で、更にどこから写真が漏れたのか」
「…」
「鳴、お前ハイエナの怒り買ったんじゃね」
「ハイエナって?」
「知らない比喩表現」
そういうのがいたならばさ、隠語で使われてそうじゃないって栃野はメニューを見ながら水を飲む。俺もなんか頼もっかなー、って別に勝手にすりゃいいそんなこと。
栃野はスイちゃんの彼氏であって、クラスでもいや学年でもトップクラスに位置する女神ポジションのスイちゃんの彼氏であるだけに緩い喋り方をするけど見た目自体は整っている。茶髪にふわっとしたパーマでさ、いや、前にそれパーマ? って聞いたら地毛って返ってきた記憶がある。
たぶん嘘なんだろうけど。
いつも深夜に見ている硯くんが格上すぎて昼間の他者など気に留めたこともなかった。どうも最近の日本人は顎が小さく目鼻立ちがくっきりしていて、堀が深いとか唇が厚いとか、日本人特有ののっぺり顔から離脱したものほどモテる傾向にあるらしい。
ピンポンで店員を呼んでこれください、ってメニューを指差してちょっとなぜか後れ毛を耳にかけながら笑顔で応える女性を見たからか、そんなつまんないことにちょっと決定打が打てた。