ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「心当たりないの、鳴」
「ない、乃至ありすぎるから困ってんじゃん」
「なんだよそれ」
盗撮された覚えと言われれば、高校生活のうちで写真なんてごまんと撮り合うし行事があれば動画も録る。自分がどのカーストに位置していたかなんて考えたこともないけどスイちゃんみたいにキラキラしていた覚えはなくても自分たちなりに事足りていた。
充実していたってことは、その笑ってた瞬間を他の誰かがどのタイミングで撮ったかなんて検討もつかないってことだ。
流出してる拡散写真は露骨にあたしが可愛子ぶってぶりっ子かました謎の盛り盛り写真だったからせめてもの救いってことでもなくてそれが逆にリアリティを増していた。
致命的なのはそのぶりっこをどこでお披露目したかあたし自身に全く記憶がないことで。
「俺が思うに、鳴に心当たりがないのなら無差別的犯行の可能性高いと思うよ」
「無差別的犯行」
「別に誰でも良かったってこと、標的なんか犯人からしたら」
『鳴。人の悪意って時に無作為だよ、誰の目にいつどこで留まるかだ』
ふと、いつかに硯くんがそんなことを言っていた。
理由も条件もなく思いつきでひとりの人間が引き起こしたことが今日も世界中でのさばって悪意が感染してパンデミック起こして形もなく一人歩きするんだよこわいよね、って。
肝心なのは「誰が」「どこで」じゃない。
「そのとき」「自分たちが」だって。ここの主語は据え置きで、模様替えできないって。
博識すぎてわかんないんだよ、もっと噛み砕いてくんないと。あともっと肝心なこともも一ついってた気がするけど、それってえっと、なんだっけ。バカにもわかるように説明してって今日ちゃんと硯くんに伝えないと。
「あれ、栃野くん?」
ガーッてファミレスの扉が開く音楽と同時に届いた声に、向かいの栃野が「あ、先輩」って声を上げる。入ってきた二人組の女子はネクタイが緑だから三年だ。えーぐうぜーんって手を上げてやってくる短いスカートから出た足と流した黒髪の艶やかさ。