ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「…何その顔」
「なんか急に恥ずかしくなってきた…」
「あんだけぐちゃぐちゃに抱かれといてそれは」
「わーっ!」
ないでしょ、の言葉を飲み込ませて口を塞いだらやっぱり半目で見下ろされた。
で、そろ、と離してまたぴしゃんと光った音で即座に硯くんにひっつく。そのまま小刻みに震えてたら前髪をあげられて、怯えた目で見上げたら軽く引き寄せられた。
「………鳴、雷だめなの?」
「…好きではない」
「濡れ衣着せられたとき普通にめっちゃ雷ん中コンビニ来てたくね」
「アドレナリンでてたらだいじょぶ」
なんだそれ、と軽く笑われて自分でもなに言ってんだかわかんなかったけどだって事実そうだった。
身に覚えのない写真が拡散された日の深夜2時、そのときたしかに外は土砂降りで雷も鳴り響いていたけれど、人って本気のときそんなちっぽけなことにいちいち怯えたりしていらんない。
あんときはガチギレしてて正直なにも怖くなかった。雷だろうがなんだろうがぶっ飛ばしてやる気満々だった。でもいまはそうじゃないじゃん。
「…硯くんは雷、嫌いじゃないの」
「おれはどっちかっていうとまだ好きかもしれない」
「なんで!?」
「なんでだろうね」
おでこにふ、と息を吹きかけられて前髪が浮く。それで思わず目を閉じて開いたらそのまま硯くんがあたしの頭の上に顎を置いたから、首元にすり寄る形になった。
「…昔さ
父親が女連れ込んであれこれしてた時おれずっとベッドの下に隠れてたことあったのね」
「!」
「…親のそういうの目の当たりにすんのって結構くるもんがあって、しんどくて。気がどうにかなりそうだったんだけど。雷はなんか、ここにいるおれなんかいつか音で殺してくれそうって思ったら自分がいないみたいで楽だった」