ビッチは夜を蹴り飛ばす。
何度かついて離れてを繰り返すキスをしてから、薄く唇を開いて迎え入れる。ちう、と舌に吸いついたときにぷつ、と硯くんの服のボタンを外した。そのまま二個目に差し掛かろうとしたら唇が離れる。
「…こら」
「いっかい」
「だめ」
一回だけ、って甘えて駄々をこねるのにだーめ、って低い声で言われて仕方ないからきゅう、って硯くんに抱きつく。
こんな、一週間離れるだけで今生の別れみたいなことになっててどうすんだろうと思う。でも仕方ない。好きなもんは好きだ。一緒にいても飽きない、懲りない、それが多分愛ってやつだ。
ちょうど耳元で心臓の音がして、硯くんの手のひらが髪を梳くようにあたしの頭を撫でるから更に離れたくなくなった。
…ほんとはね。いつも一緒にいたらここまでくっついたりしないんだよ。これはチャージ。一週間分摂取しとかないと、って思ってから、これから訪れるひとりの時間を想像してやっぱりどうしようもなく切なくなる。
ふたりってだめだね。ひとりのときは平気だったこと、平気じゃなくなっちゃうもんね。
「…硯くん」
「なに」
「……………さみしい」
ぽそ、と呟いた言葉は空間に溶けていく。反応がないからそのまま少しだけ上を見たら、碧い瞳が瞬いた。
「おれもさみしい」
「え、」
「だからなるべく急ぐ」
「………うん」
約束だよ、ってぎゅーって抱きついてしっかり硯くんを堪能してからようやく離して玄関までお見送りする。小型のスーツケースに最小限の荷物を詰め込んで振り返った硯くんにばいばい、って手を小刻みに振ったらいってらっしゃいだろって怒られた。
いってらっしゃいって言ったらなんかこれ新婚みたいって思ったし、たぶんその考えが見透かされてまたも一度甘いキスをされたから、気をつけてねって伝えたらその背中がぱたん、と扉の向こうへ消えてった。
切なかった。つらかった。一週間か、ってその日はひとりベッドで泣きながら眠ったし、で、こっから切なくあたしの一週間が始まるかと思うじゃん。
三日で帰ってきた。