ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「体重増えちゃったの3キロ!!」
思いっきり叫んだら硯くんが珍しくきょとんとした顔になった。
「………鳴好き放題食ってるからだろ」
「違うもん!! ご飯が美味しいのがいけないんだもん!」
「以外にもお菓子とかチョコとか晩に食いまくってるだろ」
「硯くん体重変わった!?」
「2キロ落ちた」
「なんでえええぇ」
うわああああんとヘドバンしたらテーブルにガツンとおでこをぶつけてクラクラする。
「たぶんおれ日本食好きだったから海外の飯無意識にあんま食ってないんかも。偏食だし」
「同じ量食べてんのにおかしいよね!?」
「さっきも言ったけどお前はお菓子食べてる」
「そんなに食べてないもん!!」
地団駄を踏むこの足踏みすら矢鱈一階に響いてんじゃないかと錯覚してハッとして大人しくする。
いつもあたしはハワイでタンクトップに薄手のTシャツ、ショーパンが定番コーデだけど、カウンターキッチンの硯くんから見えないとこで太ももの肉をむに、と摘んで前より肥えたのかと思うと途端さっと青みがさした。
「………硯くんから見てどう? あたしまるくなったかな」
「…いや? そんなわかんないけど」
「絶対嘘!! 顎肉やばwwwおつwww とか思ってるでしょ!!」
「おれのキャラ何」
うるさいわと前を向いて食事に戻る硯くんにまた地団駄踏んだら四股踏まないでと言われて発狂した。
かくしてその日からあたしのダイエットが始まったのである。
「今日からあたし朝ランニングする、夜ダンスする、お菓子食べない、ご飯もスムージーにするから。硯くんご飯作らなくていいから」
「…お好きに」
片眉上げていつまで続くかなってちょっとからかうみたいに笑う硯くんにうーってする。 見とけよ絶対痩せてナイスバディのおねーさんになってやるんだから!!
そう意気込むのは簡単で、と言うのもあたしって日本にいた頃ダイエットとは全く無縁の生活をしていた。成長過程の主食は主に母親から差し出された食パンだったし、羽振りのいいお母さんの彼氏がお金をくれる時こそコンビニのハンバーグ弁当や買い食いとかはしてたけど、お金を貯めるために食事を抜いたりお菓子で済ますことなんて知っての通りザラだった。