ビッチは夜を蹴り飛ばす。
今思い返せば完全に骨粗鬆症か糖尿案件だって鳴、って硯くんが言うからこっちにきて食事もちゃんと摂り始めた訳だし、お腹空いてないってごはんを拒否るあたしにスプーンを無理矢理突っ込んだのだって実のところ硯くんだ(無言でやってくるから怖いの)。
だから健康っちゃ健康。幸せ太り、平均体重、かもしれんけど。
なんかちょっとでもたしかに最近お菓子は食べ過ぎだ。
WeeTubeで上がってる二週間で10キロ痩せるダンス、ナイスガイ、ホットヨガに猫の体操。
海外でやってるダイエット番組・体操全てを網羅してへばり倒したダイエット3日目。
ぐうう、とお腹が鳴って床に寝転んでいたら、どこからともなく現れた硯くんが昼だ、って自分の昼食を作ってテーブルに置いた。
いただきます、って手を合わせてからあつあつのピラフみたいなのを食べる姿に、いい匂いに、更にぐううううってお腹が鳴る。
その音もあたしが恨めしげに眺めていたのも気づいたからか、硯くんはダイニングで猫のポーズを取りながら上目で見ていたあたしを顔を上げて伏し目がちに見てスプーンでまた食べた。
…なんか食べてるとこえろいな。じゃなくて。
「………硯くんそれ何? エビピラフ?」
「ジュリアンがムール貝くれたからパエリア作ってみた」
「美味しい?」
「そこそこ」
くううう、とお腹が鳴って硯くんが軽く笑う。
「………鳴一口いる?」
「ふんだ! 硯くんはすぐそーやってあたしのこと甘やかして」
「いらないならいいけど」
「いるっ」
意志ティッシュである。たたたって歩み寄って口を開けたら出来立てほやほやのパエリアをスプーンいっぱいに乗せられて、テーブルの下でしゃがんだあたしに餌付けするみたいにあーんしてくれた。
むぐ、って食べて美味しすぎて目をキラキラさせてたら、口の端についたお米を硯くんが口から迎えにきてぺろりと食べた。
「…いまのもっかいやって…」
「はいハウス」
なんでえ! と叫ぶあたしのこと犬猫みたいにしっしってあしらった硯くんのこと忘れないんだから。硯くんがこれから万が一億に一ぽにょぽにょになったらナイスバディプロポーションのあたしが貶してやるんだからね!
「笑ってるけどさあ! 硯くんだって50、60になったらぽにょぽにょになる気がしない!」
「しないんかよ」
「なんかイケオジになりそうで嫌だ…」
あんまモテないでね? ってさりげなくお腹の固さ確認しにセクハラしたら余裕で足で蹴られたし。なんでなん。