ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.10
〝恋人にキスマークを付けられることはとても多幸感に満ち溢れているわ。
だって、愛されているってこれほど目に見えて伝えられる方法は他にないもの〟
リビングで観ていた海外ドラマのヒロインの台詞にぽろ、と咥えたポテチを取りこぼす。そしてあたしは決意した。
「硯くん」
その日いつもあたしがTVドラマや映画を観ているリビングで、座って本を見ながら硯くんは何か書き物をしていた。その横に立って声をかけるあたしに無反応だから、速やかに向かいに座る。
「硯くん」
「なに」
「何してるの」
「勉強」
「なんの」
「鳴に言ってもわからん」
なんだと。わかるし、と向かいから本と書き物を交互に見るけど逆さまだからかさっぱりちんぷんかんぷんで確かにわからん、と頷いてから諦める。
こういう勉強を本来一緒に住んでてもあたしと硯くんの部屋は別々に存在してる訳だからそこで籠もってやればこんなあたしにちょっかいをかけられることもないというのに、外出することも度々ある硯くんはその時一人で留守番してるあたしを気遣ってかなるべくこういう作業は家にいるときリビングでするようにしてくれてる。
話しかけられたりすることわかってんのに何も言わずにそこにいるのも愛だよね、って勝手にほくほくしながら真顔で硯くんをガン見する。そしたら目もくれないままも一度なに、って訊かれた。
「とっても大切な話があります」
「なんですか」
「話っていうか、あたしはとても練習しました」
「なにを?」
「人間、言葉では伝えられないことが世界にはたくさんあります」
「うん?」
態度でも一緒です、と正座して熱弁してんのにうん…とか言いながら書き物に意識を戻すからそのノートにべい、と手を乗せる。我ながらうざいと思う。さながらご主人にかまちょ妨害する猫だ。
「なので態度で示すことにしました」
「だから何を」
自然と硯くんが手を跨いでペンを動かすというあたしの妨害を上回る集中スキルを見せるため、あたしはいよいよ机を前に引っ張って硯くんから勉強道具を遠ざけた。そこでやっとあたしを見た硯くんに四つん這いで迫って行く。