ビッチは夜を蹴り飛ばす。
そんで妹座りしてぐい、と胸ぐらを掴んだのに硯くんはゆっくり瞬きしてるだけだから、視線を外して机、って声に出しかけた瞬間ええいとその体を横倒しにして人をダメにするクッションの上にねじ伏せた。
「危ないのでペンは預かります!」
「…はい」
何こいつとでも言いたげに片眉を上げて少し口の端を持ち上げた硯くんに、その余裕も今だけだぞと意気込んでペンを奪うと机にべすりと置いて鼻息をふんす、と鳴らす。
一度はそのまま硯くんの首に向かおうとしたけど、いや待てよと思う。あたしはバカだから考えなしに行動しがちで直感で動いて結果を顧みないけど、硯くんは子どもと大人の境にいるとはいえあたしよりは大人だ。
もしこれで見えるとこに付けてガチギレされたらミンチになる、と懸念して離れてから、恥ずかしいけどちゃんと許可を取った方がいいのではというあたしにしては真っ当な考えに至る。
「まさか鳴に押し倒される日が来るとは」
予想外、っていつもの無表情にほんの少しの笑みを含める硯くんにえっと、と声に出す。だって違うよたぶんもっとすごいことしてくれるって期待してるもん硯くん。ごめん何かはわからんけどそこまでは出来ません、と心で返事してからあのね、って目を閉じて横髪を耳にかける。
「き、きすまーくつけたい」
「いいよ」
「早!?」
「始めからそうだろうなとは思った」
そうなの!? と叫んだら軽く頷かれる。今更だけどたぶんあたしの心全部見透かしてんだな硯くんは。けどそれが癪に障るから実はもっとすごいこと考えてたかもしんないじゃんと対抗しようとしたけどむしろ求められそうでそれは困るから大人しくうむ、と覚悟を決める。
「どこにする?」
「…す、硯くんが嫌じゃないとこ」
「別にどこでもいいけど」
「まじか」
ベタなのは鎖骨とか首じゃない、って視線を伏せて着てたシャツのボタンを片手が外しにかかるからば、とその手に待ったをかける。
「あ、あたしが外したい」
「…いいけど」
硯くんの手を退けて両手でぷつ、と一つ目のボタンを外したら相変わらず白くて綺麗な肌が覗いてごく、と唾を飲む。絶対女のあたしより綺麗、すごい、もっと見たいって思わず二つ目に差し掛かり三つ目、四つ目まで外しかけたところでがしりと手首を掴まれる。