ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「ね、メイのお兄さんメイに全然似てないね」
「に、二卵性双生児だから」
いやそれ双子のやつやんけと自分でも動揺してて何言ってんだかわかんないけどトニーの目は誤魔化せたみたい。ひそ、って硯くんを見ながら耳打ちしてくるトニーの目は爛々としてて輝きに満ちてるけど、こっちとしてはずっとずっと心臓握られてるようでちっとも勉強に集中出来やしない。
だいたい硯くん英語出来るんだから硯くんが教えてくれたらいいのに、って思うけど前にそれを言ったら「現地人に教わった方がニュアンスとか身になるよ」となんかそれっぽい言い訳されて拒否られたし、結局巡り巡って自分に返ってきたんじゃないのそれが、ってむすっとしたらトニーがええって笑った。
「何拗ねてるの! 心配しなくてもメイもとっても可愛いよ!」
「え? あ、いやそうじゃなくぶっ」
「学校でもとっても人気なんだよ! みんなメイと話したがってて早く英語喋れるようになってほしいって! 嬉しいけど僕ちょっと妬いちゃうよ!」
「と、トニー! 苦しいよ!!」
「なんで? 何今更照れてるのいつもハグしてるのに」
「トニー!?!?!」
「鳴」
呼ばれて振り向けばカウンターキッチンの中に立ってた硯くんがノールックで手招きをした。せめてこっち見て、って渋々怯えて近寄るあたしをよそに、また犬のように尻尾を振るトニーに硯くんがにこ、と微笑む。
「飲み物なんか新しいの入れるね」
「えっ! あ、お構いなく! というか、お兄さんもよかったらこっちきて一緒にお話しようよ!」
「二人の邪魔しちゃだめなんで」
僕は、って手を少しだけ挙げた硯くんに僕!? 一人称僕!? って青褪めたらトニーが残念がって、思い出したようにトイレ借りていい? って言うから玄関のすぐ隣! って笑顔を向けといた。サンキュー、ってにこやかにトニーが去っていくとそろりと硯くんを見上げて目が合うけど0コンマ1秒で逸らされる。はやいんよ。
「…硯くんおこってる?」
「別に?」
「怒ってるよね」
「お兄さん?」
おれ、鳴の。そう訊かれてきょとんとする。
「…なんて言っていいかわかんなかったの、一緒に住んでるのに、誰が聞いても違和感ない方法探した。けど、これが硯くんが一番嫌じゃないかなって思ったの」
「鳴にとっておれって何なの?」
カウンターキッチンのテーブルに両手を添えてどこともない場所を見ながら硯くんが言うから、無駄にやっぱり決まってんなとその横顔を眺めてからわからなくなる。わかんない。わかんないから、教えてよ。こっちが知りたいよ、そんなの。
それで自分が抱えてる気持ちくらいわかってよ。
「…硯くんにとってあたしがなんなの」
「少なくとも妹ではない」