ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.12
日本に比べて明らかに寒暖差もそこまでなのにそれでもいつもお母さん? って言いたくなるくらいあたしが髪を乾かさないでいたり湯冷めに口煩い硯くんだから、自己管理は完璧なんだと思ってた。
人のこと言えないじゃんって思うけど、立場が逆転したみたいで実はちょっぴり嬉しいなんて、誰にも言えないここだけの秘密だ。
硯くんが、風邪をひいた。
「38度6分。ばっちりだね」
「…何が」
「風邪が」
硯くんの部屋のベッドのへり、脇から引っこ抜いた体温計を見て頬杖をついたらにこにこにーって笑ってみる。あたしが何を言いたいのかこんな時でも察知してるのか、マスクを付けておでこに冷えピタを貼った硯くんはベッドに寝たまま少しだけ眉間にしわを寄せた。
「…昨日、夜中にジュリアンに呼び出された。水道管が壊れただとかで見て欲しいって、夜中だから専門業者も当然やってないしさっきまで出てたのにって騒ぐから…風呂上がりだったから寝たかったけど、断ったら押し掛けるとか無茶言うし」
「ごめん全然気付かなかった」
「お前すでに爆睡してたからな」
顔を逸らしてくしゅん、てめちゃくちゃ上品なくしゃみをする硯くんにえーってなる。そんな育ちのいいくしゃみするの硯くん、もっとなんか豪快にするんだと思ってた。可愛い、って思わずほっぺたに手を添えてきゅんきゅんしてたらいつもより覇気のない目に途端顎で指図される。
「…鳴もういいよ…伝染るから出てって」
「でもほら、寝付くまでそばにいないと目離したら喧嘩するでしょ」
「しねぇわ」
常暴れてる認識? って独特のツッコミをする硯くんにふは、って笑う。
そのまま既にしっかり布団を被っているというのにただやりたいから首の付け根を隠すくらいに布団を引っ張って、ぽんとその上に手を置いた。