ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「ぼへぇ—————————っ!! なんなのこれまっず!!!!」
「………え?」
「辛い! 甘い! え、しょっぱい!? どんだけ味覚バカなのよこの世に劇物生み出してんじゃないわよ!!」
何をいう、とムキになって取り返したれんげでお粥をすくって口に含んでからあたしもみるみるうちに青ざめる。…なんだこれ。甘い。辛い。んでしょっぱい。次第に喉が焼けるような渇きに見舞われてジュリアンみず、っ! って叫んだら既にミネラルウォーターをがぶ飲みしてたジュリアンにパスで水のボトルを渡される。
「なんか喉かゆっ…熱い! 中に何入れたのよ!」
「え…ぱ、パクチー」
「他は!?」
「…豆板醤と蜂蜜とメイプルシロップとクレイジーソルト」
「あんたがクレイジーよ!!!!!」
だって隠し味のつもりだった、って泣きそうな声で言ったら味が喧嘩してんのよと怒鳴られ混乱してあたしも水をがぶ飲みする。
「———っていうかあっ、あんたまさかこれスズリに食べさせたんじゃないでしょうね!?」
「…あ」
「病人に毒よ!? スズリのことだから黙っt」
「ジュリアンまたね!」
聞きなさいよ、という怒鳴り声もスルーで一気に建物の表に周り階段を駆け上がる。酷いことした。なんてこと。こんなまずかったのに、あたしもジュリアンも耐えられなかったのに、黙ってぜんぶ、
硯くんは。
「硯くん!!」
部屋の扉を開け、ぅえ、? って寝ぼけ声がしたと同時に硯くんのベッドにダイブすると今度はぐえって上から声がする。
「…鳴…おれまださすがに治ってないんだけど…」
「…っ」
「…鳴?」
落ち着いた声が降ってきて、布団ごと硯くんを抱きしめてから足をバタバタする。だめだ泣く。なんでこんな不器用なんだろう。もっとちゃんとうまくやるべきだった。めい、って呼ばれて軽く顔をあげたらもう涙でいっぱいで硯くんのことちゃんと見れなくて、ぽろって落ちたら驚いた顔をしてる硯くんがちゃんと見えた。
「…え、どうした」
「ごめん硯くん、ごめんなさい」
「なにが」
「お粥めっちゃまずかったでしょ、全部食べなくてよかったのに」
なんでなにも言わないで食べてんの、ってまた顔を潰したらあー…とその顔が壁を見た。ぽりぽりとマスク越しに頬を掻いて、持ち上げた頭をぼす、と枕に下ろす。
「…まずくはなかったよ」
「絶対うそ!」
「おいしくもなかったけど」
「ほらぁ!!」
「けど鳴が頑張ったの知ってたし」