ビッチは夜を蹴り飛ばす。
おれに作ってくれたから、って落ち着いた声が返ってきて、ぽろ、とまた涙が落ちる。そのままあたしも頭を落としてぎう、と硯くんに抱き着くと頭に大きな手のひらが降ってくる。
「だからちゃんと糧にする」
そんで今度ちゃんと教える、とさりげなく体を離そうとされてそれが嫌で硯くんにしがみ付く。真上に乗ってるから絶対重いし病人に何してんだって感じだけどそれでもどうしても離れたくなくて。
「…、鳴」
聞き分け悪くいやいやをする素振りだって、ひょっとすると同世代だったらうざ、って跳ね除けられてしまうだろう。それでもそうしないってわかってるから今日この瞬間も甘えてて、マスクを付けた硯くんを上から見てたら堪らなくなってそのまま自分の唇を押し当てた。
と言ってもマスクをしてるから唇に触れるわけじゃなくて、いつも触れてる感覚が布越しにおぼろげに伝わるだけ。そのまま顔を逸らしてやっぱりひっついたままでいたら、もぞ、と動いた布団に巻き込まれて気付けば夜の中にいた。
「…へえ、病人にそういうことする」
たった今まで硯くんが寝てた場所に仰向けになったから背中は明らかに熱くって、それだけ硯くんが熱を出してるってわかってるのに我慢出来ないから頷いて彼の首に触れる。あたしの手が冷たくて心地いいのか霞んで、熱っぽい顔が確かめるようにゆっくり瞬いて、そのまま逆の手が重なってその熱さにまるで火傷してしまいそう。
「ぅ、っん」
「…ちょっと今日、雑」
かも、と布団の下であたしの下を嬲る手つきはそれでも多分丁寧で、他でもない硯くんってだけであたしの息は簡単に上がってく。いつもなら全部剥ぎ取られるショートパンツも曖昧に脱がされてて、それが逆にあたしをおかしくさせて肝心なところから濡れた音が立ち始めたら一気に押し入ってくる。
「、いっ」
「ごめん」
「大丈夫…」
いつもより手早く挿入ってきたせいでびっくりしたけど、覆い被さってきた硯くんの身体が想像以上に熱くて自分から誘ったくせに今更になって後悔した。でもだめだ。いまやめようとか言ったらたぶんあたしは殺される(性的に)。
「んん、っ」
あたしの頭の横に肘をついて、目を閉じて動き始める硯くんの顔が熱に浮かされて赤いから、見慣れなすぎてシーツを掴んで鳴きながらその顔を目に焼き付ける。もっと、って思わず吐息をつきながら目で伝えようとしたら既にあたしの顔の横にいた硯くんが気怠げに熱い息を吐く。