ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.13 *Pocky Day
「硯くんポッキーゲームし」
「やだ」
ててて、って走ってきて廊下でぴたと立ち止まる。
ポッキーの日、手に持ったポッキーの箱、そして今まさに開封したシェアポッキー。このシェア相手を無くした今、じゃああたしはこれから誰とシェアすればいいの、ってぴえんの顔で固まってたらリビングでPCしてる硯くんがこっちに見向きもしないからあたしはしゅん、と肩を落とした。
と同時に首からストラップでぶら下げたスマホがぴるる、と音をたてて【トニー】の文字に「ハロー?」って応答する。
《あ! ハローメイ! ねえ今日暇!? イベントのチケットが手に入ったんだ一緒に行こうよ!》
「イベント?」
《うん、なんでもイギリス発祥のサーカスがこっちに回ってきてるみたいでさ、すっごく楽しいんだって!》
「サーカス…」
なにそれ楽しそう、ってキラキラした目で頷いてうんいく、って二つ返事で応えたら「オーケー、じゃいつもの時計台で待ってるね!」と電話が切れた。
サーカス、サーカスなんて見るの初めてだ。日本にいる時にも一回駅前の掲示板に貼られてた広告を目にしたことがあるけど、当時の友人ともとかゆきは全然目もくれてなかったし口に出さなかったんだよね。
はいポッキーはオワコン、て箱に収めて冷蔵庫に入れてから、硯くんに振り返る。
「硯くん、あたしこれから出かけるね」
「ん? うん」
「男の人と出かけるんだからねっ」
「うん…」
だめだ全然聞いてない。くそが。ばーか、ばーかばーかばーかって心の中で捉えて両手の小指を口の端っこに引っ掛けてべろべろばーしてたら不意に硯くんが振り向いてスン、て真顔に戻る。