ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「どこ行くの」
「…硯くんの知らないとこだよーだ」
「…何怒ってんだよ」
「硯くんが素っ気ないからじゃん。あたしシェアポッキーしたかっただけなのに、硯くん自分がちょっと綺麗な顔してるからってあんま調子乗っちゃいけないんだよ! あたしがこれからグラマラスレディになってすっごい年上のイケメンに口説かれたら硯くんどうすんの」
「…いや別にどうもしないけど」
「ばか!!!!」
硯くんなんかもう知らないって思いっきり冷蔵庫閉じたら「壊れるわ」とかこの期に及んで冷蔵庫の心配しやがるから手早く自分の部屋で着替えてショルダーバッグを引っ提げてそのまま飛び出そうとする。
も、ふと玄関の扉を開けようとしたら開かなくて、それが上から扉を押さえつけた硯くんの手のひらの仕業だって気付いたからそのまま上を向いて、目があったらふんす、と鼻を鳴らした。
「…なんなの、離してよ」
「外出する時は誰とどこに行くかと何時に帰るか言う約束」
「…口うるさい母親かよ」
「あ?」
「どいてよおおお」
明らかに声色が凄んだとわかったら怯えてぐぎぎ、って硯くんの腕を退けようとするのにびくともしない。もう! って振り返って硯くんの胸を叩いたら思いの外強く力が入って、鈍い音と共に殴られた硯くんの眉間に一瞬、痛いみたいに皺がいった。
「…あ、ごめ…でも、今のは硯くんが」
「…クソガキ」
「!? いっ」
こっち来いって思いっきり手首を掴まれて痛い痛い、って連れられるがままリビングに逆戻りしたら乱暴にラグの上に放られた。で、逃げようにも入り口側に立った硯くんに行く手を阻まれてうぇ、って萎縮したら顔を傾けてぱき、って首を鳴らされる。