ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「な、っん」
「そしたらよそ見もしないでしょ」
ふとそこで鳴り響く首から引っ提げたスマホの着信は、たぶん、あたしの到着の遅さを心配したトニーからのもの。それを予知して通話をスワイプする前にあたしを見たままかち、って硯くんがストラップからスマホを外してそれをうざったそうにぶん投げた。
ノールックの割に投げた先でちゃんと人をダメにするクッションに埋まってて良かった、って思うけどせめて連絡しないと、ってスマホを目で追ったら手首を掴まれて、脇の下に手を入れられて硯くんの上に座り直させられる。
「浮気者」
「うわ、きじゃないってば連絡しないと、」
「ちゃんと躾ける」
「聞いてる!?」
ちゅ、って下から柔らかな唇が触れて指先が首をくすぐってこそばゆくて、それでまたふにゃって力が抜けてきたら「…はい落ちた」ってくすくす笑われて。
「じゃ、今からしよっか鳴、ポッキーゲーム」
「…、っぇ」
この袋の数だけ全部、って無数にある袋の中のポッキーを指差して硯くんが笑わない目で笑うから、すげー嫉妬深いじゃんこのひと、っていうことと。
「…ゃっ、も、こんなぜんぶ、むり…っおかしくなっちゃうよ、」
「壊れればいいよいっそ」
硯くんには絶対歯向かっちゃいけない、って本気で袋の中のポッキー全部を食べ尽くすまで解放してくれなかったその日をきっかけに、あたしは誓いを立てたのだった。
「…遅いなあメイ」
そんなことが起こっているとはつゆ知らず西陽が傾きかあかあ、とカモメが鳴く海側で、トニーはひっそりと呟いた。