ビッチは夜を蹴り飛ばす。
はぁまじか。
休憩室に戻りロッカーから上着を取ると私物のブーツを持って店長の前をすり抜ける。
「店長ちょっと中抜けします」
「え、何!? どういうこと!?」
「昨今件の轟木 鳴がちょっと厄介なことになってましてなんかあった時は店長のスマホに連絡するように番号教えといたんです」
「いやなんで僕のスマホなの!?」
「おれスマホ持ってないすもん」
「ピッチとか使えばいいじゃない!」
「ピッチってなんですか」
あ、今の若者は知らないかPHS、と小声になる店長に首を傾げてすい、とスマホを覗き込む。
「場所どこってなってます? GPSアプリ入れといたんで逆探知でわかるはず」
「なんで持ち主の僕より硯くんの方が僕のスマホ使いこなしてんの」
「あれ…GPS機能バカになってんな使えない」
ちょっと貸してもらえます、と手から掠め取って振ってみてもダメだった。相手を特定するべき現在地が自分の居場所になってる。操作テストした時はまともだったのに、あーこれだから無料アプリは。
「仕方ない仕事に戻るか」
「え!? いいの行ってあげなくて!?」
「そうは言っても現段階で轟木 鳴の居場所を特定する手立てはありません」
「刑事みたいなこと言うじゃん! でもこれだけ連絡してきてるんだもん何かあったんじゃないの!?」
「でしょうね」
「あまりにも冷静!」
「まぁ一度落ち着いて飴でも食べましょう」
いやそれうちの商品だからね! とか叫ぶ店長をやんわり躱してチュッパチャッパスを口に含むとからころ、と転がしてみる。そのまま飴の味なんだこれ、と包み紙を広げて眼鏡を上げたらガー、とコンビニの入り口が開く音がした。白のキャップの作業員。業者だ。
「お疲れさまでーすってなんか飴食べてるよ店員が」
「あれ? 今日いつもより時間早いすね」
「いやぁ、それがいつも通ってる道暴走族って言うんですか? 若者が道路に単車停めて屯してて道塞いでるから迂回しろって同業者から連絡がありまして、そいつ前にクラクション鳴らしたらパンクされたとかトラックに酒吹っかけられたとか言ってるし、面倒なことに絡まれるの厄介じゃないですか。苦肉の策ですよ」
「へー若者は元気あるう」
「硯さんもそう変わんないでしょうに、聞いた話じゃよくいるあの子と同じ学校の高校生も絡んでるとか。全く治安悪いですねえ」
ふーんと検品表を眺めてから、同じタイミングで店長と顔を見合わせた。