ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「…え?」
きょと、と珍しくきょとん顔をした硯くんにだから、って正座しながら少しだけ前に出る。
「硯くんに、穴、開けて欲しい」
「………」
「ピアスの」
「なんだピアスか」
「なんだって何!!」
しょーもな、って半目で顔を逸らす硯くんに逆に何想像したんだよと思うけど想像の上の上をいってそうでとても聞けるわけがない。
だから代わりにねーっ、て呼びかけたらいつもの気怠げな視線が膝に頬杖をつきながら振り向いた。
「開けりゃいーじゃん」
「ずっと開けたいと思ってたの、高校入ったら開けるって決めてたの! でもビビり倒してて全然自分じゃ開けられなくてみんなの見ていいなーって」
「うん、だから開けりゃ」
「怖いんだってば!」
人の話聞いてた!? って聞いたら目を閉じて顔を逸らされてなんでなんだ。なんでだー!
「す、硯くんいくつ開いてるの?」
「おれは5個だったかな」
「片耳で!?」
「両耳で」
そんな人体改造してないわって言うけど硯くん初めて会った時貴金属ジャラジャラで正味そっちの人だと思ったんだよ、上手に着こなしてるから何一つ下品ではなかったけどね? って悶々と考えて黙ったら、左3、右2、って自分の耳たぶを指さしながら応えられる。
綺麗な耳に今日は片耳だけチェーン付きのを付けていて、でも綺麗な肌だからこそ穴が開いてるんだなぁとまざまざ見せつけられればひぃ、と怖気てしまう。
いつも硯くんは大きめの黒いお気に入り(たぶん)を付けてるけど、これら5つが閉じないように管理する力も必要だし、あたしは開けるにしてもまず一個か、二個でいい。
「鳴世代になると開けたくなるよね、おれも開けたの高校の頃だったし周りもそんな感じだった」
「周りの女の子たちも開けてた!?」
「男子校だったから女子のことは知らん」
お、耳寄り初情報。男子校だったんだ、え、じゃあモテすぎなかったんだなよかったー、って一人でにほっこりしてからいやいや、って顔を振る。今そんなこと考えてる場合じゃない。
「あ、あたし、も開けて大丈夫なタイプかなぁ」
「別に悪いタイプとか無いでしょ、金属アレルギーとかあんの」
「わかんない、でも時々首は痒くなる」
「まぁ今樹脂ポストピアスとかあるから様子見ながら付けてみたらいいんじゃん」
どれ、って手で軽く髪を避けられて硯くんの顔が近づく。
それだけで別の意味でドキドキしてその綺麗な目とか相変わらず肌陶器、とか眺めてたらすり、と耳朶を指先で撫でられた。