ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「うん、素材は悪くない」
「硯くん、そういうお店の人にいそうだもんね」
「そういうお店とは」
「人体改造系の」
「や、興味ないって」
なにそれ、って軽く笑ってる間にも人の耳朶触り続けてくるからもう触診大丈夫だよ? って聞いたら思い出したように手を退けてくれた。人の耳をストレスボールみたいに扱うのやめてくれ。
「けど開けるったってピアッサーなくね」
「え、硯くん持ってないの」
「そんなもん一回開けてどっかやったわ」
「じゃあ安全ピンでいいよ!」
「安ピン…?」
ええ、って露骨に嫌そうな顔する硯くんに小首を傾げる。
「え、だめ? 学校の子とか授業中に安ピンぶっ刺さってたよ」
「お前の学校そんな治安悪かったの?」
「初めてってみんなそうだと思ってた」
「別に開けれんことはないけど絶対おすすめはしない、綺麗に開かないし下手すりゃ膿むし何より相当…」
それ以上のことは口を噤む硯くんにいたい? って小首を傾げたらこく、って頷かれて笑いながらぶわりと冷や汗が滲み出る。で、しまいには怯えのあまり震えてたらぽん、と頭に手を乗せられた。
「諦めろ」
「やーだー!!!!!」
「急にうるさい」
「今日開けるって決めたから今日開けないとあたしその日に決めたことその日にしないとほんと別の日に出来ないタイプなの!! 今やっと心に決めた? 肝が据わったから今、今やんないと! いつやるの!」
「知らんけど」
「今なの!!」
うおんと硯くんの首を掴んでグラグラしたら顔面掴まれてぐき、と首が後ろに沿ってあ、やめてください無事死にます。そのままいたい…って涙目で人をだめにするクッションに仰向けになってたら硯くんがはぁ、って軽く息を吐いて。
「…本当に今日やんの」
「今日したい、もん」
「安全ピン探してくるわ」
すく、と立ち上がった硯くんを目で追いかけて起き上がったら前に二人こぞって風邪をひいた時にマリーおばさんが優しさでくれた氷嚢を投げて寄越される。
「これは?」
「耳冷やしといて、感覚鈍らせるために」
「硯くんもこんなのした?」
「おれはしてない敏感じゃないから」
痛覚に関して、って安全ピン探してるのに途中でチュッパチャッパスの飴みっけ、って飴を咥えるとその先に目当てのものがあったのか指先で針を出した。で、軽く辺りを見回して何故かあったライターを持ってくると、飴を咥えたまま硯くんが火で針を軽く炙る。
なんかな。一番持たせちゃいけない二つ持ってるよねってそのあまりに様になりすぎた組み合わせを遠巻きから見守って、慣れた動作で歩いてくるからおろ、と正座が崩れて尻餅をついてしまう。