ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「覚悟は?」
「目が、目がギラついてるってば硯くん」
「そんなビビんなくても痛くないって」
「さっき相当痛いって言ったよね!?」
「おれが開けたら痛くないかも」
「何その自分に対する過信!」
やめときなよ! って頼んどきながら逃げ惑って部屋の隅までばたばた行き着くと氷嚢をべい、て硯くんに投げつける。それもいとも簡単にキャッチされるし片手に針持ってるしわー!!
それでそのまま部屋の隅で壁ドンされて、完全に人殺したことあるだろみたいな目に見下ろされたら安全ピンがちくん、と軽く当たっただけで、あたしの意識は呆気なく事切れた。
「鳴、届いた」
数日後。
安全ピンで開けようと試みたもののあまりのショックで気絶したあたしのために、硯くんが日本からAmezonでピアッサーを逆輸入してくれた。あれ以来今か今かと待ちわびて宅配が届くたび「ピアッサー!?」って叫ぶから硯くんに叱られて、今もピンポンが鳴って絶対そうだよと思ってたけど下唇を噛んで堪えてた。
やっと、やっとか。
小包みを持って廊下を歩いて来た硯くんからほぼ抱きつくように箱をふんだくり、中に入ってたこじんまりしたそれを開封する。おお、これが、ピアッサー。
「な、なんかミシンの針降りてくるとこみたい」
「要領一緒だからな」
もうぐずんなよ、って釘を刺してくる言葉にはこくこくと頷いて、率先して冷凍庫に頭突っ込んでくるねと伝えたら氷嚢にしろと普通にツッコまれた。
穴を、開けたいところにはさっき青の水性ペンで印をつけたんだ。そこに開けてもらう。ついに、念願の、ピアスをだ。
「てか動作簡単なんだから自分で出来るけどこれ」
「むりだよ変に力入るかやり損なって失敗しちゃうよ、硯くんみたいに容赦ない人にやってもらった方が間違いないもん」
あとうまそうだし、って絶大の信頼をジェスチャーで伝えたら軽く手招きされて、胡座をかいて座る。ここ? って印のとこを指さされて、こくんと頷いてから目を閉じる。