ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「耳どお」
その日の晩、すったもんだあって無事になんとか開いたピアスの穴を洗面所で確認していたら、鏡に硯くんが映った。
あのあと結局あたしがあまりに泣き叫ぶからひとまず片方だけにしようということで事なきを得た(?)のだ。情けない話だけど、でも耳に炎症出ないか様子見するか、ってそれらしい理由を取ってつけてやめてくれたのは紛れもない硯くんである。
やっぱりあたしに甘々だね、ってすこし得意げに笑って振り向いたら、ファーストピアスが付いた左耳たぶを指さしてみる。
「へーき。そして硯くんが開けてくれたからベストポジション」
「それは良かった」
「落ち着いたら右開けたい」
「次は自分で開けろよ」
「えー」
そこは頼みますよ、と手をすりすりしたらどうかな、みたいな感じで小首を傾げられた。これは押せばまた開けてくれるやつや、ってあほっぽく笑ってたら一歩近づいてきた硯くんにす、と耳たぶを指で触れられる。
地味にじんじんはずっとしてて、それで少しだけ怖がったら笑われた。
「ファーストピアス外したら好きなの付けたらいいよ」
「海外にもいいのあるかな」
「あるだろ」
付き合う、と告げられたのが嬉しくて犬みたいに尻尾を振ってはにかんだらちゅ、ってこめかみにキスされた。そして自然な動作で廊下に出て行った硯くんの後を追い、自分の部屋から枕を持ってきたら割と真顔で振り向かれる。
「じゃああの、その調子で左耳負担かけないようにしたいので左腕で腕まくらお願いしま」
言い切る前にぱたん、と扉を閉められて一緒に寝るプランごとパーになってしまったので、その日以降硯くんの好意につけ込むのは程々にするようにしています。