ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「Wait! If you think of someone, it ’s not a squirrel, what ’s this head?
(待ってやだ!! 誰かと思ったらスズリじゃない何この頭かぁわいい——————!!)」
「!!」
挨拶がてらちゅう、と熱烈なキスをほっぺたに織り成すレベッカから硯くんをふんだくる。硯くんの頭を胸に抱いてシャーッて全身の毛を逆立てたらぷっと小馬鹿にしたように笑われた。
「No, is it the work of this child? Suzuri, you really get along with such a child, isn't it cute but not enough stimulation?
(やだ、ひょっとしてこの子の仕業なの? スズリ、あなた本気でこんな子どもと仲良くしてるの、可愛いけど刺激が足りないんじゃない?)」
「おい! 近い! 何言ってんだかわかんないけどこれあたしんだから!」
「人をモノ呼ばわりすんな」
「Well, yeah. When I saw something interesting, my worries were blown away. Suzuri, if you get tired of this child, call me right away ♡
(ま、いーわ。面白いもの見たら悩み吹っ飛んじゃった。スズリ、この子に飽きたらすぐ呼んでね♡)」
ちゅ、と一度ならず二度までも硯くんの耳元にキスをしたレベッカにあ———! と叫んだら余裕の笑みでウインクされた。ウインクされた、ウインクされたんだけど!!
「………めい、くるしい」
来たと思ったら嵐の様に去っていったレベッカを見送ってわなわな震えていたら、んぅ、って少しあたしの腕の中で身じろぎした硯くんをすかさず更に抱き締める。
「………っ、レベッカ、なんて言ってたの!」
「………めい可愛いねって」
「絶対うそ!!」
べい、って体を離したら真っ赤なキスマークがほっぺたについたちょんまげ硯くんが本当だよ、って真顔で言うから、あたしは一気に熱が冷めてその肩を押しのけた。
「どこ行くんだよ」
「上に帰る! 硯くんなんかもう知らない!」
バン、とAmoreの扉を開けて出て行ったこの時のあたしの態度といえば完全にレベッカの思うツボだったけど。そのあと店に取り残された硯くんにジュリアンが「あんたも大変ね」って言われてそれでも硯くんが頷かなかったことを、あたしは知る由もなかったんだ。
「鳴」
Amoreから戻るなり自分の部屋に引きこもってヘッドフォンをつけてガンガン音楽を流していたら、部屋の扉がノックされた。
音はしっかりシャットアウトしていたし昼間なのに布団をかぶってたけど、そのノックに気がついたのはたぶん、心ではそのお迎えを待ってたから。渋々音楽を切って振り向けば、も一度コン、と扉が鳴った。