ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「なに。今忙しいんだけど」
「出てきて」
「なんで」
「いいから」
無視してヘッドフォンを付け直そうとしたらまるでその動きがわかってるみたいに「めい、」っても一度呼びかけられて乱暴にベッドへとヘッドフォンをぶん投げる。
それで渋々扉を開けて背中をつけたら、相変わらずバブみ硯くんがあたしの頭の上に手をついて、要するに肘ドン? するような形になった。
ただし頭はちょんまげである。
「…なに」
「何じゃないでしょ。言いたいことあんならちゃんと言って」
「いや」
つん、てそっぽを向いたら少しだけ顔を覗き込まれた。恐ろしく綺麗な顔が、(※ただしちょんまげである)鳶色の瞳があたしを捉えててああ! と叫ぶ。
「硯くんいっつもいっつもなんですぐ人にチューさせるわけ! 危機管理能力狂ってんじゃないの!」
「真っ向からディスりすぎだろ」
「あたしがトニーとかにそんなんされたら指へし折る癖に」
「折りはしないよ」
折りは? とか気にかけてたら肩におでこを乗せられた。何重い、って少しだけ眉を顰めたらそのまま首に硯くんのちょんまげがかすめて、首かゆい、ってすこしだけ笑ってしまったら首に手を添えられる。
「妬いてんの」
それであくまで見た目はバブみ全開なのに大人な目で訊ねられるから、曖昧に小首を傾げたら無邪気に笑われた。ほんとうに。大人みたいな見た目して子どもを飼ってる、そんでその顔をあたしにしかたぶん見せないのが本当ずるい。
「………硯くん」
「なに」
「…これからは、ちゃんと帰ってきてくれる?」
「…善処する」
「善処、っ、て」
ふいにちゅ、と軽くキスされてそのあと柔く唇を舐められた。それからくすぐったい、って上を向いたら首にキスが降って来て、やだーって笑ってたら喉仏の辺りから首の付け根までを舌でつー、と舐められてぞく、と腰が震える。
で、そのままくた、って壁に脱力してしまったら腰を支えられて耳朶に低い声。
「めい わるいことする?」
「わるい、こと」
「うん」
手首を掴まれて、脈打ってる場所にちゅ、とキスされる。そして熱を孕んだ瞳があたしを射るから壮絶な色香にあてられてただごく、と息を呑んだ。
「…い、いよ、硯くんの好きにして」
「ちがうだろ。今日、罰くらってんのおれだよ」
「…」
「わかる? 鳴が命令すんの」
「…命令?」
「今日は、鳴の言うこと全部聞く」
どうして欲しい? って伏し目がちに問われてばくばく心臓を鳴らしながら指の腹で硯くんの唇に触れる。目を閉じた相手の長い睫毛と、無表情なくせに上向きな口角と。柔らかな唇の感覚を確かめて瞼を持ち上げた硯くんを見たら、その透明目掛けて小さく懇願した。
「…触って」