ビッチは夜を蹴り飛ばす。
*13.ビッチは朝を抱き締める。
スマホに海外のSIMカードを入れ替えて久方ぶりに以前炎上を果たしたあたしのツブッターのアカウントを裏アカウントから覗いてみたら、運営が削除したのかアクセス権限がなくなってしまっていた。
「このアカウントは存在しません」の文言の下、それでもそこには今まで起こったコメントの名残は存在していて、いくら〝なかったこと〟にしたとしたって、あったことは変わらない。
でもこんなのはきっとこのSNSという場が存在する限り切っても切れないことで、運営としてはよくある話で、そして悪いひとを突き止めるのには馬鹿みたいに骨が折れて、きっとトカゲのしっぽ切りなんだ。
《このアカウントを削除しますか?》
アカウント警備をするための裏アカウントに表示された文言に、「はい」を速やかにタップする。「一ヶ月以内であれば復元できます」の文言をスワイプしてホーム画面に戻ったら、あたしはそのツブッターのアプリをスマホから消去した。
物語が終わっても、人生は終わらない。
漫画も映画も小説も、人の目に止まる部分だけを切り取って構成したその先にあたしたちはちゃんと生きている。これまでも、それからこれからも。
そして物語の続きを描くのは、あたしたちだ。
「硯くん」
部屋を出る前、今日ははじまりの朝にしようと決めて、いつもと違うルートを辿って見た。
いつもなら朝方まで起きてて昼まで寝てるのに、今日に備えて昨日はあえて早く寝た。朝起きて、お風呂に入った。まだ乾かない髪をまとめて、自分の部屋の鏡台の前で開けてなかった香水を空間に解き放って、それを一度くぐってみた。
だいぶ前、春だったかな。ともとゆきと駅前のショップで買ったやつ。いい匂いがして、とっておきの日に付けるんだよって約束して。でも翌日二人はあっさりそれを付けてきてて、ここはつけるでしょ普通ー! って笑われた。
異性をゆーわくする成分配合だってえろいよねって笑ってて、そのあと別にとももゆきも彼氏が出来たわけじゃなかったから、そんなのは気休めだって思う。だから自分を始めるために開封して、自分を卒業するためにつけてみた。