ビッチは夜を蹴り飛ばす。
いつもよりもっとずっと、甘いキス。
は、って少しだけ涙目で息を吐いたら背中に大きな手のひらが滑り込んできた感覚があって、く、と少しだけ持ち上げられる。で、軽く上体を突き出すようになったあたしの胸や鎖骨や首にキスを落とすのが、たぶん硯くんの癖。
ちく、ちくん、とさりげなく痕を残されて、肌に印がついていく。その間さりげなく触れた胸を柔く形を確かめるみたいにタンクトップの上から揉まれるから、くすぐったくて硯くんの髪の毛に自分の手を差し込んだ。
「…あの、さ」
「ん」
「どっちが本当の硯くんなの?」
「どっちって」
「普段の硯くんと、時々めちゃくちゃあたしに甘い硯くん」
「どっちもおれだよ」
てかおれいつも鳴には甘いじゃん、と言うけれど、夜更かししてたら普通にリビングいるのに電気消されるし洗濯物待たずに回されるしココナッツジュースたまに気まぐれで飲み干されたりするけどそれ甘い? って考える。甘いよ、甘いんだろうけど。なんか違うんよ。
神妙な面持ちをしてたのがバレたのか、気づいたように硯くんが胸元から離れて顔を上げる。
「鳴はどっちがいい?」
「え」
「甘いのと激しいの」
なんかすごいことを訊かれてるのに、目が離せなくてほぇ、って間の抜けた声が出る。それって普段の硯くんのこと、それともこれからすることについて? って。それで言葉に詰まってたら手首を掴んだ硯くんに「脈はや、」って笑われて。
「………はげし、いの」
「ん、あとでね」
やっぱこれからのことだった! って真っ赤になったけど甘い入口を宣言した割にいきなりショートパンツを脱がされて、下は下着姿で性急に足を開かれるからまってまって、って待ったをかける。
「は、はやいって!」
「今更何照れてんの」
「ムードとは!?」
「散々仕込んだだろ」
「その言い方やめて! 硯くんってば!」
聞いて、って言ってんのに柔く下も触られ始めて頭に靄がかかってくる。踊らされすぎだ、年上だからって、でもこれずるいよ意地悪だよ、って少しずつ込み上げてくるものにそれでも必死に抵抗する。