ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 


「鳴、いちばんはじめにおれとしたときのこと覚えてる」


 下を触られながら落ち着いた口調で問われて、へ、ぇ? って間の抜けた声が出る。覚えてる。忘れるわけなんかない。おれのいうこときけ、って言われて。

 はじめて感じる硯くんに胸が爆発しそうだった。


「その時した質問の答えちゃんと聞く」

「え、」
「鳴、はじめて? こういうことすんのって」


 曖昧に首を傾げたとき、あの時硯くんは無感情な目でそれでもちょっと怒ったんだ。またそれで怒らせたくないから目が泳いで、そしたら下を触ってた硯くんの動きが少しだけ返事を仰ぐように和らいで。

 目が、応えてって訴えてる。

 でももう待てないみたいにいつもの場所に硯くんのが当たるから、まって、って顔を赤らめて覆い被さってきた硯くんに目と鼻の先で見られても顔を逸らす。


「…おこる、よ」
「なんでそう思うの」

「その、あたしだからその…経験が」

「知ってる」
「え」
栃野(とちの)だろ」
「え」
「挑発してきたからおれが目ぇえぐった」

「え!?!?!」


 待ってほんとに言ってんの。

 やべーよもしかしてあたし相当やばい人とつるんでんじゃね、と今更ながらに理解してさーっと顔から血の気が引いていく。そこで海塚《かいづか》が以前言っていた〝目抉られて当然だよあいつ〟のフレーズが思い出されて合点がいって、

 でもやっぱり直ちにさーっと青ざめる。



 でもそんなのも束の間で隙をついたようにくぷ、と中に入ってきてうぁ、って声が漏れた。首の付け根にキスされながら足をもたれて二、三、軽く腰を打たれてん、んって声が上がる。
 でも硯くんにとってはこれも本気じゃない前戯みたいなものだからあたしが善がってても気にせずで。

 気にせず、なのに、いつもなら。…今日は軽く吐息越しに目があった。


「…どっちがよかった?」

「え、」
「あいつと」
「は、そんなの、っ、硯くんに、決まって、」

「…そ」


 ほっとしたように長い息を吐く硯くんに、あたしはずっと言ってやろうと思ってたことをやっとこの瞬間口に出す。トニーにしても。今だって。硯くん絶対自分じゃ全くわかってくれやしないから。


「…やきもち?」


 そう吐息越しに伝えたらぴたと動きが停止した。


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