ビッチは夜を蹴り飛ばす。
ピンクコードのイヤホンを耳に挿して好きな音楽をスマホでチョイスしてシャッフルする。夜は好き。朝より、すき。眩しい世界で生きてる制服姿のみんなとあたしは真逆の場所に立ってるけど、夜、外へと制服で繰り出すJKを止める大人はあたしの近くにはいないから。
都内だったらたぶん速攻補導案件だろうけど、ここは少し都内からは外れていて、更に夜間の人通りはないに等しい。
だから自由に自分でいられる。スキップをして、人通りのない道路の真ん中で音楽に合わせて走り回って、たまに側転なんかもしちゃってさ。スカートだろうが何だろうが誰にも見られないから関係ない。あたしは自由を体現しているのだ。
高校生になったらこんな生き方をしてみたい、というのは中学の時から決めていた。好きなシンガーソングライターの歌詞で「深夜2時に繰り出して好き勝手やっちゃって」ってのがあって、その生き方にあたしはとことん憧れを抱いていたみたいだった。
事実そこに自由があって、自分がいて、それからとてつもない孤独があった。
ともと電話を切ってからのこの時間、あたしは朝方に帰って4時間だけ寝てまた登校して学校で寝るけれど。友だちに会えるまではちょっと寂しいなんてセンチメンタルになることだってあるのだ。
だって人間だからね。
高校入学早々はじめた深夜徘徊に、はじめてコンビニで遭遇した西山さんという男の人は冴えない無口で、あたしが何をしても目を瞑っていた。深夜のコンビニバイトって冴えない人が多いよね。それかばりばりのヤンキーか。
だからこそ西山さんをなめ腐ったあたしは初手のコンビニでドリンクコーナーに行くなりレジを通す前にタブを開けて飲みながらレジに向かったし、それでスニーカーズを投げてあとこれも、って飲んでる缶のバーコードを見せたらビビり倒してみたいだった。
まったく人畜無害だと言うのに、そんな迷惑客のことを西山さんはチクらない。これすなわち縄張り認定合格ってーことで。
「おっじゃまーん」
いつも通り深夜であろうが何だろうが構わずポップな音楽で迎えてくれるコンビニはこの入店音がいい。イヤホンをび、って外してその入口を故郷みたいに潜ったら、いつも通りスマホを見ながらどれにしよっかなー、とドリンクコーナーを物色する。