ビッチは夜を蹴り飛ばす。
よし今日はきみにきめた、ってグレープフルーツ味のエナジードリンクを指さして、例によってぷしゅ、とタブを開けて一口。んー、うまうま。舌で転がしてもう一口。
スマホを見ながらツブッターの警備をして、夜になれば静まり返るメインアカのタイムラインは深夜に盛り上がる裏アカウントに切り替える。
夜の中で生きる人たちはあたし以外にもちろんごろごろいるわけで、70億から掻い摘んだ一部は傷を舐め合って生きている。でも朝が弱いとか夜に強いとかってあれ、実は生まれた時から決まってるとかで夜型のひとが朝方に切り替えようにもどだい無理な話なんだって。DNAに刻み込まれたリズムを覆すことなんて、とどのつまり生まれてしまったあたしらが後からどうこうできるもんじゃない。
彼氏がレスだ、死にたい、DV、そんな薄暗い世界を見てるとほっとする。
全く失礼な話だけど、あたしがまともじゃない理由を、こうして世界ではびこる不安定が立て直してくれるんだ。人のふり見て我がふり直せ、ってね。あたしの場合、ただ自分より酷い世界があるってことただ認識したいだけ。
ああ、今日も世界が不安定だ。
首をもたげて後ろの棚のお菓子を取り、ほぼ無意識に開けて口に放り込む。甘いチョコレートのお菓子を食べながら防犯カメラを眺めるこの強行も、西山バイトが何とかしてくれてるみたいなんだよね。
だけど冴えないところが玉に瑕、って思ってからレジの前に立って、今日はいない西山さんをきょろきょろと見回してみる。おかしいな。いつもならあたしが来るなり困った顔で挙動不審になって、意味なく棚を触ったりお菓子食べてるあたしを遠巻きに見てるのに。
ぐう、とそこでお腹が鳴って、チョコよりもっと寄越せのお腹の合図に隣にあった肉まんのショーケースを物色する。
夜中にあんまりがっつりしたのは食べないのが主義だけど。今日はお腹が空いてるし、たまにはこんなのもありだろう。
「西山さーん、肉まんください」
こんこここん、とレジのテーブルをノックして、バックヤードを覗き込む。…無反応。あ、これひょっとして寝てるやつ? WeeTubeで見たことある。呼びかけても誰も出てこないコンビニ、って西山おい仕事しろ。
「肉まんください!!」
「勝手にどーぞ?」