ビッチは夜を蹴り飛ばす。
声は斜め後ろからだった。
振り返れば雑誌コーナーで片足を上げて立ってる後ろ姿がいて、さらさらの黒髪はきちんとコンビニの制服を着てるのにだけど雑誌、てか青年誌、と言う名のエロ本を眺めてる。
え、誰やあれ。西山バイトじゃないじゃんよ。いつもこの時間は西山さんだったのに。
困ってその様子を窺ってたら相手も何かを察したのか雑誌を見ながらこっちに歩み寄ってきた。歩きスマホならぬ歩き雑誌をして、丸眼鏡をかけたサラサラヘアの彼はべ、っと雑誌を閉じてカウンターに入るとひとりごちる。
「…やっぱ勃たねーな」
「んっ?」
「お会計」
それ、って既に開けて貪ってたスニーカーズの空袋を指差されて、目が合うとその目は蒼かった。カラコンしてる。そして恐ろしいくらい肌が綺麗で、ピアス開いてて、そして指には指輪までついている。それバイト中おっけーなん? と思うけど、日本人離れしたその見た目が西山バイトを一気に吹っ飛ばす破壊力だったから素直に空袋を出したら「うしろの」と告げられた。
「後ろの缶も出そうか」
「えっ」
「開けて、飲んでんの。あ、それか強盗?」
コンビニ、と尋ねられてあんまりその目が好戦的だったから小刻みに顔を振った。なんだつまんな、と一気にまた白けた様子でバーコードを読み取る、お兄さん何もんや。
「…西山さんは?」
「は?」
「西山さん」
「誰それ」
「え、いや前ここにいたバイト」
「あぁ。なんかそんなんいたな」
おれは知らない、ってあっさり言われて、えーってなる。よく見たら口ピアス…じゃないな。口の端にシルバーのリップリングまでつけていて、とことん身体中にアクセサリを纏ったこの人がコンビニ店員に向いてないことだけはわかる。
だってこんな見た目だったら普通店長採用しないでしょ。