ビッチは夜を蹴り飛ばす。
ははーっ、てしてたら表をあげい、と言われてふはって笑う。
硯くん面白い! 命の波長があってるよ! 無表情だけどノリいいんだ! 気に入った、って勝手にさらに尻尾を振ってたら仕事をしがてら冷静な声が届く。
「覚えようと思ったらしばらくフルネームで呼ぶと思う、人の名前覚えんの苦手」
「いいよ! その努力評価に値する!」
「あそ。てか女子高生が制服でこんな時間にコンビニ来てるとかまずいんじゃないの」
今日水曜だよ、って週の真ん中に来てることを余計不審に思ったのか硯くんはカレンダーを見ながらそう言って、あたしは得意げにふふんと笑う。
「まずくないの。あたしの世界線は深夜2時に飛躍するの」
「ほう」
「暗い方が落ち着くの。家に帰っても誰もいないしね。お母さん最近帰ってこなくてさ、家に一人だと洗い場のシンクの蛇口がぽちゃ、ぽちゃ、って水を漏らす音が気になって寝れないの。あとあたしってばちょっと寝るだけで超元気。いつもエナジードリンク飲んでるからかな。主食はチョコレート、虫歯には気をつけてるからなったことない!」
「すげー喋るじゃん」
「え、ごめんうるさい?」
「いいけど」
こっちに目もくれず軽く笑う姿にきゅんとして、その素っ気なさははじめから買っていた。
だから硯くんも喋ってくれてええんやでと思ったのにそれ以上喋ってくんないから、なんというか口数は多分多くない。別にいいけどね。喋らない相手の方があたし的には気が合うし、というのも学校なんかじゃみんながみんな自分の話を聞いてほしいJK集団の中、限られた時間でみんな喧嘩するみたいに言葉を錯綜させる。
あたしもその一味ではあるけれど、口をきかない地蔵に話したいことだってあって、西山バイトはその相手として役者不足だったのだ。