ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 さっきから偉そうだけど、他人をいつだって有り難くは思ってるつもり。

 バスタブで22時から1時まで喋るともとの無駄話も、
 翌朝の学校でゆきに話す下ネタも、
 かわいーねって声をかけてきた(スイ)ちゃんの彼氏の栃野(とちの)のことも、

 これからきっともっと大切にしたい全部に増えていく。

 あたし何とか学校受かったから、バカなりに頑張ったから高校生活は楽しく過ごしたいんだよね。
 昔からあの子と遊んじゃだめって後ろ指刺される側のいつだってあたしだからこそ。

 これからもっとたくさんのこと、経験して学んで、他愛ない今日を過ごしたい。それが「普通」の立つ世界からひっくり返った裏側でも、って頭でごちゃごちゃ考えてたら、硯くんが戻ってきて決まった? って肉まんのショーケースを指差した。


「むふ。トリップしてた。めんご」

「轟木 鳴、お前なかなか変な子だね」

「変でーす。さて。んじゃこのデラックス肉まん3つください!」

「3つも食うの?」

「違うよ」

 ショーケースから3つを出して紙に包んで手渡してくれるとき、硯くんのぬるい手があたしの手と重なった。

 細くて白くて長いけど、でも男の人なんだねって思ってから小首を傾げた硯くんに二つ目を持たせ、3つ目は分割する。



「はんぶんこ!」



 二つ目は硯くんので三つ目ははんぶんこね、これあたしの奢りね、だから悪事は内緒だよって笑ったら硯くんが驚いたようにあたしを見て。


「…なるほどね」

「ん?」



 どうかした? って小首を傾げるあたしに硯くんがなんでもない、って笑った日、その目が少し懐かしく感じたこと。



 あたしたちが始まったその日硯くんも同じことを考えていたお話は、また、近い未来で。


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