ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「─────────は…!?」
が、即座に青い光が舞い降りる。
涼しい瞳がギラついた目を目視したのを最後に、彼はアクセルを全開にして、そして、あろうことか、
衝突間際でバイクから飛び降りた。
「新崎!!」
無人のまま真っ直ぐ走行したオートバイをすんでの所で躱したものの相手はバランスを崩してバイクごと派手に横転した。彼のもとへ駆け寄る数人の声の後に硯くんという運転手を失ったオートバイがガードレールにぶつかって爆発、炎上し、派手な音が立つ中「新崎、」と仲間たちが呼ぶ声を聞いてあたしもハッと我にかえる。
「硯くん!!」
コンクリートに全身を打ち付けたと思いきや、草場の辺りで目を閉じていた彼を柔く二、三揺するとゆっくりと目を開いた。
いや、本当に、何してんの。死ぬし普通、死ぬよ。
思わず目の奥からこみ上げてくる熱いものを引っ込めようとしたら無表情のまま綺麗な顔で指ハートされた。いや硯くん。指折るよ。
「…行こう、向こうに業者の車が待ってる」
「あ、あいつらは」
「今は一旦引いた方がいい。おれも今ので動けない」
肩貸して、と言われてなんとか硯くんを引っ張り起こすと連中が向こうに気を取られている間にそそくさとその場を後にする。その際呆然としていた女性たちにも早くいきな、って手であしらわれて、何が味方で敵なのか、物事の判別もよくわからないまま映画のラストシーンみたいに遠くに停まっていた業者さんの車に乗り込んだら「生きてたんすね、二人とも!!」と熱烈な歓迎を受けることになった。…
夜はもう明るんでいて、深夜2時の延長線に朝があるのを知ってしまった。
それに絶望した帰り道、これからはじまりを迎える一般人をよそにあたしはあたしのあるべきところに帰還する。ロケットみたいな夜だった。首はちくちくと痛んで、キスされた唇は心なしかアルコールの臭いがする気がする。
思い出した頃、家に着いた。あのあとコンビニの店長の計らいで硯くんはあたしを家まで送ってくれたのだ。最近、母の相手をする男の羽振りがいい影響でボロアパートから昇格した、集合住宅。
いわゆる団地は朝の光を受けて、白い壁面を光らせている。