ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「しりとりしよ、硯くん」
「肉まん」
「なんで?」
最初のあたしの頑張りのおかげでほぼ乗りたかったアトラクションは制覇したから、硯くんなんか乗りたいのある、って聞いたら一番はじめのって言われた。意外だった。
はじめは45分待ちだったアトラクションも今じゃ145分待ちとかになっていて、順番待ちの価格では友だち同士が写真を撮ったり、カップルっぽい人たちがいちゃついてたり、かと思ったら気まずそうにしていたり。
だから切り出したのに、秒で終わられた。それで性懲りもなく眠たげに柵に頭を預ける硯くんに、えーってなる。えーだよ。ほんと。
「硯くん今日ずっとそんな感じなの? いつものシャキシャキはどこ? アンニュイだよ?」
「ねむu」
「ねないでー」
おはなししてー、ってかまちょをかけてうだうだしつつ、さっき買ったキャラメルポップコーンをしょりしょりする。うん、やっぱりポップコーンはキャラメルに限る。抹茶塩も美味しかったけど永遠食べていられるや。
「ねぇ、前の男の人めちゃめちゃかっこいい」
ぱくって、口に放り込んだキャラメルポップコーンが唇に当たって下に落ちた。あ、って思った矢先にどこからともなく飛んできた鳩に食べられて、それを目で追う。
「うわ…ほんとだ」
「モデルさんみたい」
「肌めっちゃキレイ」
「顔ちっさ…!」
きゃいきゃい、と少し距離を置いた場所で黄色い声を上げるお姉さんたちに、じ、と改めて硯くんを見る。
知ってる。硯くんの肌が陶器みたいにくすみ一つ無くて顔がちっさくて背もすらってしてて、猫背だけど実は仕事の時はしゃんとしてるってことも、あたしは知ってる。
今は光の中にいるけどこの白い肌、深夜2時だとあろうことかもっとずっと輝くんだよ。ホタルイカみたいにね。青白くってさ。まさかって思うけどほんとなんだもんね、べーだ。
「………いらい」
うりうり、と寝ぼけ眼なのをいいことに、硯くんのほっぺたを両サイドから軽くつねる。そのまま上下左右に遊ぶのに、あんまり肉がないから特別不細工にもならなくて、代わりに裸眼の鳶色の瞳と目があって、
その虹彩があんまり透明で驚いた。