ビッチは夜を蹴り飛ばす。
それから泥のように生きてる
廊下を歩けばひとたび王様のお通りみたいにさっと道を開けた同級生が耳打ちに白い目を向けてきて時折降ってくる紙屑がぽこんと頭に当たってもイカ焼きを咥えたままその道のど真ん中を歩く。
あたしはパンダで、王様で、そして何より醜いお前らと同じ人間様だ。後ろ指をさして笑う群衆の中、自分のセミロングの隙間にともとゆきがスローモーションに見えて黒髪の線に紛れて消えていく、
その背中にドンッと衝動があった。
「ついてるよ」
【ヤリマンクソビッチ】とご丁寧に達筆で殴り書きされた紙をぴら、ってあたしがしっかり視認する前にぐしゃってその子は握り潰した。
背が高くてポニーテールの麦色の肌をした女の子。
それがのちのナカジこと中島沙和との出会いだ。
「私、自分で見て聞いたものしか信じないんだよね、基本的に」
お昼休み、気を抜けば知らない暗がりに連れ込まれてしまうのを防ぐためにあたしの呼吸はあの日から大きく肺を使うのをやめた。
迫害される人種みたいに息を潜めて仄暗いところで呼吸をして、その安地はここ最近、別棟校舎裏ゴミ焼却炉の近くだった。日陰で、日の当たる場所ではグラウンドの土埃が風に舞い光が塵みたいに光るのに、この場所は地面が湿気ていて裏の木々が出すマイナスイオン効果なのか空気が冷たく薄ら寒い。
昔見たホラー映画の髪の長い女もこんな場所からゴミ袋を爪で突き破って四つん這いになって出てくるんだよ、と思って日々食べていたコッペパンを、今日は屋上へと繋がる扉の前で並んで食べた。
ナカジがいたからだ。こんなとこにいたら病気になるよってそう笑うナカジは、あたしといたらナカジも痛い目見るよって言ったのにそう言った。