ビッチは夜を蹴り飛ばす。
この夏、いろんなことが一緒くたに押し寄せてきたから肝心なことを忘れかけていたけれど、世間は、というか学校は期末試験を控えていたようだった。今年は改修工事の影響で春休みが二週間も元のものに追加になって4月にほとんど学校がなかったから、代わりに夏休みが二週間ほどしかない。
だから試験なんかやったところでまた学校、ってたかだか二週間の夏休みにアガらない生徒たちの中に紛れて、あたしもこんなクソみたいな学校でも進級するには及第点を獲得する義務があった。
意外とヤマカンは当たる方で、これまで勉強しなくても基本及第点だった。今回も別にそれでいけるはずだ。
「トド、今日帰り一緒に勉強しようよ」
「えっ」
「一週間前だから部活ないんだ。テニス部は顧問が怖いから全教科平均点以上ないと地獄の筋トレメニュー追加されんの。ねっ、お願い! 私理数苦手なんだよ! 英語は教えるから! 助けると思って!」
「いいけどあたしいつも全教科及第点だよ」
「えっ」
うっそ意外、って何に対する意外なのか、合掌したままナカジが目をぱちぱちするからなんかそれが狐につままれた日本昔話のキャラクターみたいで、ぶはって吹き出して笑った。
期末試験一週間前で部活がなくなって生徒の帰る時間が一律同じになるってことは、駅前にごった返す高校生の数も増えるってことだ。
テニス部の子たちとか、あたしがまだこんなんになる前、とにかく女子テニスだとか女バスだとか、ああいうチームワークが試される競技はとにかく寝ても覚めても四六時中同じグループでつるんでいる印象があった。
団体行動が苦手で、だから運動部入ってもいいとは思ってもその一連を避けるために結局帰宅部になって、くだらないことを言い合っていたとももゆきも、その点理解あってある程度不健康だったから同じファミレスで勉強なんて一度もしたことない。あたしが欠けた今、あの二人が別のどこかで勉強しているビジョンも浮かばなかった。
魚群から外れたイワシになりたいナカジは、駅前で人が多いファミレスにあたしと二人で入っても飄々としていた。まだ、同学年だけじゃない他の学年もいるから、やや視線は四散する。
それにしたって、「あれ轟木 鳴じゃね」って後ろ指を刺される声を絶対耳にはしていたはずなのに、気にしないでコーラフロートとメロンフロートを頼んで教科書を広げるんだから、なんともタフだ。
「やだー、ぜんっぜんわかんない。どーしよ。私の頭ってどーも理数を取り込むように出来てないみたい」
「英語出来るんだからいいじゃん」
「トドは? トド、なんの科目得意?」
「日本史かなぁ覚えるだけだから」