ビッチは夜を蹴り飛ばす。
あー、確かに年表とか、歴史人物とかね、ってシャーペンを動かしてまた教科書とノートを交互に見るナカジを前に、あたしはスマホで拡散された原本である例のツイートを研究していた。
587リツイート、872ナイス。これ、明らかにうちの学校の生徒数を上回っている。リプ欄や関連ツイートには他の悪質なサイトに飛ぶリンクと思しきもの、そして同級生からの揶揄はあっても、「報告します」の文言が一切ない。
それどころかそのツイートを関連ツイートとして更に拡散しているようで、原本の報告を済ませてもこれじゃイタチごっこだろう。ユーザ名だけじゃ犯人が特定出来ないし、拡散している者もわからない。
──────お前ハイエナの怒り買ったんじゃね
いつか栃野が比喩だと言った、その言葉が何故か急に浮上した。そして、こうも言った。別に誰でも良かったと。標的なんて、犯人からしたら。無差別的犯行。ハイエナ。野蛮な言葉が頭の中をぐるぐるして、バーストする。残念。あたしの頭の許容量を越えるコンテンツで、諦めてちゅーってメロンフロートを飲み漁る。
「ねね、トドってさ、好きな人いる?」
「おっと急に恋バナかあ?」
「勉強の合間の恋バナ! ね、どうなの? 可愛いし、純粋に」
「ナカジはあたしのこと絶賛だな」
「絶賛だよーん。私はね、むふふ、まあ私の推しを見てくれたまえよ」
推し? ってストローを咥えたまま小首を傾げたらスマホを取り出してこれ、この人! って写真フォルダのなんだかとっても綺麗な顔をした男の人の写真を見せられた。
やっぱり日本人特有の顔じゃない。色んな髪型に色んな服装に身を包んだ彼は韓国のアイドルだかなんだかで、その手に疎いあたしはひとまずおお、って感嘆する。そして同時に似てるとも思った。唇、そして目の感じ、肌の白さ。そうか、硯くんって韓国のアイドルとかに似てるんだ。
「もー、すーっごいカッコいいの! やばくない!? こんな顔して王子様で毒吐くの」
「ひどくない?」
「試合前とかもさ、あたしK-POP好きだから好きな曲聞いて、推しの笑顔を見て、そして挑む! そしたら勝ち越すんだ。実際こんな人いたら秒で求婚するね」
「それはすごいや」