ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「JKもたいへんだ」
「たいへんどころの騒ぎじゃないやい」
「ま、はたから見る分には面白いけどね」
はー仕事だっる、って腰のあたりをボリボリ掻きながら歩いていく痩躯とシリコン調の黒の腕時計となんかよくわからんブレスレット。その黒いブレスレットの合間の星みたいな光が綺麗だからちょうだい、って言ったらいーけどやだって言う。それは硯くん、嫌だと言うことだよ。前置きのいーけどはいらない。自分の意思は大切にしたほうがいいと思う。
「毎晩毎晩、あたしがこうやって深夜2時に来たら硯くん迷惑?」
「いや? 僅かとはいえ売り上げに貢献してくれてるし話し相手になるし仕事手伝ってくれるから全然」
「手伝いたくない…」
でも、さっき勝手に商品飲んだよね、って笑われた。飲んだ。めっちゃ飲んだ。でも初めて来た日も家の冷蔵庫みたいなノリで考え事しながらあれやって、挙句もげるチーズも開けちゃってあ、ってなったとこをレジのとこに立ってた硯くんに確かみられたんだよね。
そしたら動かないでって言われた。そこは防犯カメラの死角だから、おれを口封じできればこの悪行はばれないんだって。
そのことを伝えるのに硯くんはわざわざ別の防犯カメラの死角から話しかけたけど、そもそも音声録られてるから無意味だった。動画編集も得意とか言う苦手分野のない硯くんはその技術であたしを誤魔化した。
その代償が深夜2時、コンビニ非公認のアルバイトってわけだ。