ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 日本人はのっぺり顔だからねー、そんでイケメンと結婚して女の子産んだら女の子はパパに似るから美女になって私は幸せなんだぁ、ってまた目がなくなるナカジは、試験が終わったら夏休み明けの個人戦の大会に出て、まずは一旗揚げるのが目標なんだそうだ。

 ナカジのテニスを見たことはないけど、程よく焼けた小麦色の肌とポニーテールに被ったキャップは似合いそうで、あたしが被ってもゴルフのキャディーみたいにしかならないけどその無念はナカジが晴らしてくれるって訳のわからない納得をした。


「課題進んだ?」

「うーん、たぶん。でもやっぱり教えてもらう人がいなきゃダメかな。家でもうちょい復習するよ」

「がーんばっ」

「トドは何もしてないのに余裕だなぁ」


 結局勉強と言う名目で久方ぶりに同級生とお喋りをして、ファミレスで時間を潰すという最高の時間を過ごしただけだった。ありがとうございましたーの声に背中を押されて外に出て、冷房の効いた店内から一度外に出るとむっとした空気がまとわり付く。もうれっきとした夏だ。
 駅前、まだ沈まない太陽はしぶとく西の辺りで存在を(くすぶ)っている。

 生温い外気にそれでも夏の風が頬を舐めてぼーっとしていたら、隣を歩くナカジと目があって、笑った。それだけなのになんだか涙が出そうになった。


「ナカジは、なんであたしのこと信じてくれるの」

「えー? 散々言ったでしょ。私は、私が自分で見て聞いたものしか信じないって。ずっと気がかりだったんだ、だからトドに思い切って話してみてスッキリしたよ。色気皆無なんだもん」

「うおん」

「なんでみんなわかんないんだろうね。わかってほしいとももう思わないけどね」


 臆病抱えて魚群の一味になってた私が言えることじゃないけど、手のひら返したみたいに今からみんながトドの良さに気がついて元の生活に戻っても、私は納得いかないっていう。たぶん嫉妬するし、人の本性をいよいよ信じられなくなるし、そうすると嘘も本当も混同するから、なんだって。

 今の現状をいいとは言わない。でもこの事態のほとぼりが冷めるのはまだ先だと遠回しに言われたようで、ですよねって思った。あたしは屈しない、ナカジ。そういう汚い、たぶん普通の人が口に出せないとこちゃんと思い切れる人がこの世界に少しでもいるなら、もういい。


「知ってることは知ってる人だけが知っていればいいよ」

「トド…なんかよくわかんないけど好き!」

「よくわからんのかい」


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