ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「あの子のそばにいるのやめときな」
パタン、て煙草のショーケースを閉めて、黒い瞳があたしを見る。
「………なんで? 硯くんナカジのこと見て悪そうって思った?」
「違う逆」
「ぎゃく」
「いい子だから傷つく」
カウンターを抜けて床に置かれたコンテナからの商品補充に移る硯くんに付き纏う。
「どういうこと? あたし頭悪いからわかんない」
「頭悪いの言い訳にして考えんの放棄するから頭良くならないんだよ」
「硯くん意地悪だよ!?」
「じゃあ聞くけど」
棚にパンを押し付けたことで外袋の音が鳴る。
「こんな時間にこんなところで油売ってるお前と、日向の下歩いてる世間一般の女子高生。なんで肩並べられると思うの鳴、どう考えても帳尻合わないでしょ」
「………あたしが普通じゃないって言いたいの」
「少なくともまともじゃない」
「硯くんだって同類じゃん」
「だから余計わかるんだよ」
人の舌噛み切って殺そうとするおれだからわかるっていう。
人の眼球に飴の棒を突き刺して失明させるおれだから硯くんはわかるって言う。
「傷つける人間じゃないとわからない。日向を歩いてる人間の煩わしさと鬱陶しいって思う気持ちも、一目で傷つけ甲斐あるって思ったもん」
「………なんでそんなこと言えんだよ」
硯くんはヒーローだって思ってた。
それだけ吐き捨てて外に飛び出した夏の夜の背中に、コンビニの当て付けがましい白い光をいつまでも感じててそれがなんだか煩わしかった。
日向じゃない。明るいところなんかじゃない。まだ夜の中にいる。硯くんもあたしも、見つけた光の中にいたんじゃなかった。あれはただの造形物だった。人工的に見いだした光の中で燻ってただけだった。
まるで夜光蟲みたいにね。
大人の言うことなんかちっとも聞きたくなくて、はじめて硯くんの言いつけを破ったその日、そういえば硯くんも大人の一人だってことを思い出した。正しくは大人になりきれない大人だ。彼は子どもと大人の間にいる。だからこそ絶妙な機微を感じてた。
結論として、硯くんの言うことは聞いておくべきだった。
「トド、今日お昼学食行こっ」
「うん! あ、待って、あたし財布教室だから取ってくる」
「あーいじゃあ先に行ってるねん」