ビッチは夜を蹴り飛ばす。
06.叩いてるお前らみんな無自覚だけど加害者だかんな
「いやー、あっついあっつい。今日最高気温34度だって、もうすっかり夏だね硯くん」
エアコン下げていーい、って既に22度設定のリモコンを18度まで下げられて、そのディスプレイと店長の丸っこく汗ばんだフォルムを見比べる。
朝のシフトは眩しくて、外ではためく明朝体で書かれた「夏のキャンペーン」ののぼりが曰く若干涼やかさを増すらしい。
「あ、そだっ。硯くんこれみて。じゃじゃーん夢の片道切符〜」
「…宝くじ?」
「いいでしょいいでしょ。どうかなーって思ってたんだけど初めて思い切って買っちゃった、夢をお金で買える時代。いいよねこれくらい、夢見るだけタダだもん」
「はぁ」
目が眩むんでサングラスかけていいですか、と訊いたら夜じゃないしだめだよ? って優しく断られた。だめだ、朝の光は頭が痛くなる。圧倒的夜行性による作業効率の低下でレジカウンターに腕を伸ばし光を遮るように俯向くと、えー夏バテ? 今来たばっかじゃんと言われる。そうだ。今きたばっかだった。
「硯くんが朝の人員足りてないとこ入ってくれるって言うから僕二人で入るの久々だしワクワクしてたのに。でも普段絶対昼間入らないのにどういう風の吹き回し? 学校はもう休み?」
「…来ないんです」
「えっ?」
店内は引くほどうすら寒いのに、太陽に焼かれたのが理由か首筋に嫌な汗をかいていた。ポップな音と共に入店する客に店長がいらっしゃいませーと声を張り上げて、蜃気楼と蝉の大合唱に反吐が出る。
鳴が深夜2時にコンビニに来なくなって二週間が経っていた。
「———、っん」
暗幕を引いた地学教室で、椅子に座った栃野に跨るように座ったあたしに下から栃野がすくい上げるようなキスをする。
シャツのボタンの幾つかだけを外して滑り込んできた手に下着の上から揉みしだかれて、恥辱に吐息をついたらその隙間を見計らって舌が潜り込んでくる。
12の頃知らない男にファーストキスを奪われた。
あの噂が立って栃野に処女を奪われた。
翠ちゃんってものがありながら栃野はバカみたいにあれからあたしをどこで入手したのかもわからないTALKのIDで呼びつけて、あたしを弄ぶようになった。
無視は出来なかった。「お前最近中島と」が暗黙の了解で。