ビッチは夜を蹴り飛ばす。


 ガーッて扉が開いて、明るいポップな音に混じってお客さんが入ってくる。こんな深夜のコンビニになんの用事かと思ったらトイレを借りて、申し訳程度にガムをレジに放り投げて去っていった。

 トイレ借りただけじゃないんだもん偉いね。評価に値するよ。


「ここですずりくんに質問たぁーいむ! あたしは何か人の恨みを買うことをしでかしたんでしょーかっ!」

「思い当たる節は?」

「あり過ぎて困る」

「轟木 鳴」


 やれやれ、って若干切長の目にそれはだめ、って顔を左右に振られる程度には、あたしの素行はそれなりに悪かった。

 恵まれていない子供である自覚があって、その証拠に物心ついた時からお母さんは日頃タンクトップにショーパンなんて薄着でリビングというか居間というかボロいアパートの畳の上でたばこを吸って毎日知らない男と一緒にいた。


 母はあたしに興味がないだけで、だから何をしてくるわけでもなかったのが救いだったんだけど、母が連れてきた男が12の時にあたしにちょっかいを出してきて、それは悪戯だったんだけど、あーそれで男の人って狼なんだってそれで理解が及んだの。

 だからファーストキスは名前も知らない男だったし、母は帰宅してそんな場面を見てもなにやってんの、って抑揚のない声で言うだけだった。そんで食パンを渡されてあっちいってな、って違う部屋の押し入れに忍び込むんだよ。



 羽振りのいい男と最近は一緒にいて、アパートはちょっといい感じというかボロアパートからふつうの団地にレベルアップした。

 でも隣の小学生に挨拶しようとしたらそのママらしい人に鋭い目で睨まれたし、それに関して背を向けたあとに手を振ったら小学生も手を振り返してくれたからあたしの勝ちだ。



 ハッシュタグ。ハッシュタグの話だった。

 あたし、こんな頭も悪いし日本語も下手だけどこうなる前は一応あたまのわるい普通の女子高生のつもりだったんだよ。空のバスタブで友達と笑いながら喋ったり、夜は課題をやらずに友だちと公園で喋ったり、それがなんだ、急に腫れ物扱いしやがって。


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