ビッチは夜を蹴り飛ばす。
信じていたから許せなかった。
「───ん? あれっ!?」
おにーさん、ちょっとそこのおにーさん。そう声がして、辺りを軽く見る。影一つない夏の真昼、サングラスを忘れた目でかろうじて日差しの照りつける土手に人気がないことを視認して振り向いたら、茶髪の男があーっと声を上げた。
「やーっぱそうだ! ほら俺。俺!」
「…誰」
「え───っ! 忘れたんかよお」
バイクカッコ良かったっすねえ、と大声で叫ばれて意味がわからず首を傾けて踵を返したら追いついて隣を後ろ歩きで並走してきた。その辺りで直近で最後にバイクに乗ったのが鳴の奪還時だと思い出してあぁ、と目だけで男を見る。
確か名前を栃野とか言った。
「かー見た目通り淡っ白。っつーかよくよく見ても色男。前は暗くてよくわかんなかったからさぁ、そうだ鳴元気? まさか停学になるとは思わなかったよなー。てかあんたから連絡してくんない? 溜まっててヤりたりねーんだわ」
「は?」
「え、鳴からなんも聞いてねーの?」
嘘でしょなにそれおもろ、と笑われて、ぶくっと噴き出される。
そして嬉々として大手を広げた。
「俺がブチ犯しちゃいましたー!!
いやー本当はローターとか使ってぐっちゃぐちゃにしてやりたかったんだけどその時持ってくの忘れてさ〜
あっは! 俺! 鳴の!! 初めての男!! イエーイ!」
「…」
「てかあんたインポなんだろ」
上がったり下がったり忙しない。ぽい顔してるもんねなんか、と呟けば黙って見据えるおれにそいつはふはって狂った目で息を吐く。
「かわいそっ。俺だったら死ぬわ人生何が楽しいの?
だってあいつ処女でしょ? 鳴の挙動見てすぐわかったよ俺がちょっと手ー出すだけで小動物みたいにふっるえてさあ。
鳴の肌柔らかかかったなあ、
白くて 細くて 泣き喚くくせして俺のことぎゅーって締め付けて離さないの、可愛くない?」
「…知ってたんだ?」
「いや普通に見てたらわかるだろ。
学校で噂されるほどよそで男に囲われてる兆候もない、っからカマかけて翠を理由に誘ってみたら馬鹿みてーにホイホイついてくる。初めから鳴があんなアホらしい拡散RTする人間じゃないって俺は知ってたよ」