ビッチは夜を蹴り飛ばす。
ま、今こんな話はどうでもいい。
「思い当たる節の直近としては、拡散前にスイちゃんの彼氏にめいかわいーね、って頭撫でられたの」
「スイとは」
「翠ちゃんは、同じクラスの美人さん」
手足もすらーって。すらーってお人形みたくながくって、細くて、髪の毛綺麗で、目も大きくて、色っぽい。
左の耳に髪をかける仕草をするとき、ちょっと伏し目がちになるのがすんごいエロいの、って男子が喋ってたのを聞いた。女のあたしが見てもドギマギするそんな彼氏にだ。スイちゃんがトイレ行った時にぽんっ、て頭撫でられた。
めいかわいーねってな。
なんの脈絡もなくな。
おめーと喋ったことねえんだわ。
「もうそれほぼ確実じゃん」
「虱潰しに当たるにはいいと思う?」
「ウン」
「ただ、スイちゃんはその場面を見ていない、と思う。それに逆恨みするようなタイプでもなければ、思ったことがあったら口に出してちゃんと言う」
「はぁ」
「だから、ちょっと望みは薄いな」
チョコ食べていい? って聞いたらいーよ、って言われた。
めちゃくちゃコンビニのど真ん中の棚、防犯カメラと目があいながらエリンギの里を食べる。さくさくさく。
硯くんにもあげるね、って近寄ってって差し出したらいらねって顔を背けられた。なんでじゃん。あたしの奢りだと言うのに。
「鳴、バックヤードの飲料ドリンク補充してほしい」
「おっ! 待ってましたあ! あたしそっれちょ〜得意なんだよ!」
「あれ上手いとか下手とかあんの?」
「ないと思う」
エリンギをくわえながらプップー、って車の真似をしてバックヤードに忍び込む。何度か入ったその場所は店頭とは違ったちょっと薄暗くて、段ボールが積み重なっていた。そのタイミングで朝に向けた業者のトラックが来て、業者のおじさんと品物の検品を行ってる硯くんが見える。
硯くん、おーい。
ブンブン手を振るのに、気づかない。代わりにおじさんと一瞬目があった。