ビッチは夜を蹴り飛ばす。
事が済むとそのままバイトに向かった硯くんについてその日は朝までコンビニにいた。
夜は他愛ないことを喋って朝方になるとバックヤードで旧式のエトリスをやったりして、気がつくとそのまま寝こけていたみたい。とんと肩を叩かれたら硯くんの上着がかかってて、それを剥いで羽織りながら「終わったよ」と告げられた。
コンビニで朝を迎えたのはあたしの記憶するところはじめてだ。
薄明るんだ空に夜がないことを嘆いたら、ひとつだけ明るく光る星を見つけた。朝に飲み込まれて消えちゃうのかなあの光、って手を伸ばすと「鳴」って隣から声がする。
「お前行くとこないんならうち来るか」
「え?」
もう自宅のアパートの前で、階段に足を引っ掛けた。昨日の夕方に家を出てそれきり夜に帰らなくても、あたしのスマホに心配の連絡が来たことはない。一度もだ。でもそれが正常で。
「家に居場所ないんだろ」
「…」
「おれ一人暮らしだし」
おれたち似たもの同士だよ、って硯くんが真っ直ぐ言うから、あたしはぽかんと口を開く。
「………硯くんにゆーわくされた…」
「してねーよ」
「ワンナイトラブどうって言われた!」
「もう朝だわ」
真面目に言ってんのにと珍しくむっとする硯くんににへと笑う。やさしいんだなぁ。見た目冷たそうだけど中身はあったかくて実はやさしいんだよ、硯くんは。知ってるし、知ってたよ。
だって似たもの同士だもん。
「ありがとう硯くん。でもあたし大丈夫だよ」
精神強いんだ! って拳をふるって、にへって笑う。それで軽くそ、って返した硯くんの返事は表情に反して素っ気なくて、顔は優しいのになって踵を返すその背中をちょっとだけ見送った。
なんにも怖くなんかない。ほんとだよ、大丈夫。