ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「いやしかし殴るなんてすっごいよね、校長殴るなんて前代未聞中の未聞。歴史に名を残す名女優になれるよ」
「なにっ…校長、自分のおじいちゃん殴ったから、その腹いせ!?」
「いやあの耄碌ジジイはどうでもいい」
むしろ清々した、って切り替えて笑う眼は死んでいて、そこに生気が通ってなかった。この眼、この目知ってる、あたしたちと一緒だ、と目を瞠る最中ほのかに笑みを浮かべた海塚が歩み寄り肘で少しだけ上体を起こしたあたしの間近で立ち止まる。
「きみが直面してる事態の黒幕でぇす」
視界に薄い膜が張った。それが海で、涙だと気付いた矢先に足を鷲掴んで食い下がる。
「海塚さん」
「いいよ来なくて」
「 お前か 」
「ん?」
「ナカジ押したのお前か」
「ちげぇよバカ」
「てめぇがナカジ呼び出して突き飛ばしたんだろうが!!!!!!!!!!!!」
爪を立てたら乱暴に足で顔を蹴られた。そのまま強く頭を打つあたしに海塚は悠々と背を向ける。
「安直だねー。考えが浅はかだから二次災害起こってんじゃないの。中島さんはその被害者でしょ」
「お前がっ…」
「夏の入り口に集会あったの覚えてる?」
サービスエリア貸し切りのやつ、と言われて血と涙で濡れた目で空を睨めば割れた窓が散乱した場所から逆光を背にまた海塚が歩み寄る。
「お前の彼氏が暴れて爆発炎上させたバイクの乗り手な新崎ってんだけどあれ腹違いの俺の弟」
「…」
「やっとこ最近再会出来たとこだったんだよねー
物臭な親持ったせいで子どもの頃に二人揃って施設に預けられてそっからあっちは知らねー親に連れられて生き別れになったのを、ほんとついこないだ出会えたばっかだった。
苗字も変わっててさぁ、ほんと誰かわかんなかったんだけど
バカやってる俺と結果似たような生き方してて生きる導線が重なった。大切だったんだよ、これでも
ま 唯一の家族だからね」
「、」
「全身大火傷を負って今じゃ意識不明の重体だ」
ぐっと胸ぐらを掴まれ合わさった瞳に海が出来る。それはあたしじゃなく海塚ので、怒りと復讐に燃える炎に屈しかけたら乱暴に体を離された。