ビッチは夜を蹴り飛ばす。
(…またサングラス忘れた)
忘れたのはバイト先のコンビニで、今日明日はシフトじゃないため次までの日中を思えば取りに行くのは必定で。かと言って昼間に行くのは誤算だったかな、と思った矢先、コンビニの入り口で声を聞く。
「どぅぁーかぁーらぁー。そのしじみだかすずりだかってやつとっとと出せっつってんの」
「す、硯くんは今日明日休みで来ません…!」
「はぁー? だからてめ店長だろって。電話するなりなんなりして呼び出せよ、燃やしちゃうよ? この頭」
「やめてくださいっ…!!」
「店長?」
声をかけたおれに、店長が待ってましたと言わんばかりの目を向ける。期待の眼差しをキャッチして、それから掴みかかる男に照準を切り替えた。
「相変わらず喧嘩強いねぇ…」
めちゃくちゃ痛そう、と青ざめる店長に構わず地面に突っ伏す男の背中に腰掛ける。血みどろになってもなお慌ててスマホで誰かに連絡を取ろうとするのでそれを速やかに掠め取った。
「お、おいやめっ…!」
「これ誰」
ディスプレイに表示された〝K〟の表示を男に見せつける。見えないとしらばっくれないように目の前に向けたのに首を傾げるので中指を真逆にへし折る。
「ァアアアアァアアアア!!!!!!!!」
「次人差し指」
「ちがっ、知らない、知らないんですうぅううう!! ここにっここに来いってっ、すずりってやつ、止めろって、言われておれは何も知らなくてァアアアアァアアアア」
人差し指を真逆に向けてからふと、突拍子もなく脳裏に言葉が浮かんだ。
「……足止め?」
おれの言葉に、下の男が目を泳がせ、最終的にほくそ笑む。
「———やられた」
「えっ、ちょ、硯くん!? このひとは!?」
「警察に通報してください」
「フルボッコだけど!?」
「正当防衛」
それだけ言って着歴の最後を確認しリダイヤルする。3コールで「おう」と届く低い声。
《お疲れーい。スズリなんとかなったか?》
「余裕。集会場所どこだっけ」
《は? 三区の土手越えた海塚さんの私有地の廃ビル…ってお前なんか声違くね?》
構わず通話を切り辺りを見回す。そこでコンビニから出てきて今から原付に乗ろうとする男に声をかけた。